小学校・中学校・高等学校における科学教育振興を目的とした取組に対して助成事業を実施している(公財)中谷医工計測技術振興財団は、成果発表会を12月26日に東京で、12月22日に岡山で開催。児童生徒が自らの言葉で研究成果をプレゼンテーションし、交流や知見を深めた。東日本大会では東京工業大学 科学技術創成研究院の大隅良典栄誉教授、西日本大会では東京大学 総合研究博物館の遠藤秀紀教授が講演した。
東日本大会には52校から約300人、西日本大会には49校から約200人が参加。出場校は研究成果をポスターに掲示し、45分の発表時間で来場者に説明した。
東日本大会でグランプリに輝いたのは札幌市立向陵中学校の「ケミカルライトの研究2019」。2018年の北海道胆振東部地震では北海道全域が停電となったが、発光時に発熱しないことから、停電中に使用できるケミカルライトについて、研究の意義を感じるようになったという。より明るく、発光時間を長くすることを目標に研究を進め、シュウ酸ビスと過酸化水素水の量を変えることで明るさと発光時間の変化を調べた。生徒は、ケミカルライトについて理解してもらうため、見学者に1本ずつ渡して説明。実験の結果、過酸化水素水の量を変えても明るさの最大値に変化は見られなかったが、シュウ酸ビスの量を変えると明るさの最大値に変化が見られたこと、シュウ酸ビスの量を増やすと発光時間が長くなることを報告。次回は実験時の湯せんの温度を変えるなどして、発光時間を伸ばしていきたいと話した。
東日本大会で奨励賞を受賞した、秋田県立秋田高等学校の生物部緑茶班は「緑茶と抗生物質の飲み合わせを科学的に考える」をテーマに発表した。緑茶で薬を服用してはいけないと言われるが、その説の科学的根拠について検証。枯草菌、納豆菌、大腸菌DH5aなど各細菌に対するアンピシリンの抗菌効果の変化を調査した。その結果、薬の効果の変化は稀であり、緑茶で服用してもほぼ問題ないことが分かったとする。
同じく奨励賞を受賞した台東区立忍岡小学校は「世界の海洋プラスチックゴミをなくすには」をテーマに発表。世界の海洋プラスチックゴミにおいて日本は400億枚のレジ袋、227億本のペットボトルを排出するなど、東南アジアの国からのプラスチックゴミが多くなっている。このままプラスチックゴミが増え続けると、サンゴがマイクロプラスチックを食べることで、共生している褐虫藻が失われ、サンゴが死滅する恐れがある。そこでプログラミングしたロボットでゴミの回収を提案。回収、運搬、分別の3種類のプログラミングロボットを使って砂浜のゴミを回収できると訴えた。
東京大学大学院教育学研究科附属海洋教育センターの日置光久特任教授は「学校で学んだことをベースに進めた研究が多かったことに感動した。今後は先行研究のリサーチを行い、自分たちの研究分野がどこまで進んでいるか確かめてから取り組むことに挑戦してほしい。豊かな自然を守るという発表があったが、本当の自然の豊かさとは何か、問題意識を持って研究を深めてほしい」と講評した。
ノーベル生理学・医学賞受賞者である大隅氏は「研究の楽しさ-細胞が生き抜く仕組み-」をテーマに語った。
高校の時は化学部に所属し、漠然と自然科学者になりたいと思っていた。大学で生命活動を分子のレベルで語る分子生物学に興味を持ち、以後酵母を40年以上、研究している。理由は、研究する人あまりがいなかったため。酵母はパンやビールを作るのに欠かせないものであり、人類が最も古くから付き合ってきた微生物であるにもかかわらず、当時、酵母における液胞は細胞のごみ溜め程度と考えられていた。人がやらないことをやりたいと考え、液胞の研究に着手した。
植物細胞の90%以上が液胞で占められる。バラの花が美しいのも、タケノコの成長が早いのも、リンゴが甘いのも、すべて液胞に秘密がある。「知っている」と「解る」ことは違う。分かった気にならず、もう一歩踏み込んで考えることが大事である。
東京大学の生物学での最初の講義の時、「体の中で赤血球は1秒間に何個作られるか」と学生に質問している。答えは300万個だが、さらに赤血球中のヘモグロビンというタンパク質は1秒間に1千兆個も作られている。同時に同じぐらいの数のヘモグロビンが壊れている。体の中では、細胞がダイナミックに維持されている。
オートファジー(細胞が飢餓状態になった場合に不要なたんぱく質を分解して再利用するなどの仕組み)の研究でノーベル賞を受賞したが、がん細胞の抑制など、その研究は着実に進み、大きなフィールドに成長した。科学研究に終わりはない。オートファジーの研究も、いまだ発展途上。恐れることなく、失敗を気にせずチャレンジしてほしい。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2020年2月3日号掲載