法政大学キャリアデザイン学部 坂本旬教授は、デジタル・ストーリーテリング(以下DS)を導入し、留学生を含めた他者の理解促進や、学生間における豊かな人間関係性の創出という効果を生んでいる。
DSとは、静止画とナレーションを組み合わせた2~3分程度の動画作品のこと。自分自身を語る表現方法として、各国の学校で使われている。DSを導入した理由について、「自分の物語を作品にすることから、キャリア教育に適していると考えました。とりわけ入学したばかりの学生にとって、何のために大学に入ったのか、これから何をしようと考えているのか、自ら振り返る契機になります」と話す。
「なかには人前で話すことが苦手な学生もいる。しかし、DSはプレゼンテーションではない。人前で話せなくても制作できる。目立たずほとんど話さない学生が、素晴らしい作品を作った事例はたくさんある。」日本人学生がDS制作を通じて留学生と理解し合うきっかけになったり、DS制作の過程で先輩が後輩を支援することも珍しくない。
「大人数講義で発表会をすると、教室は静寂と熱気に包まれます。DSの効果を実感する場となります」
DS制作は、基本的にはスマートフォンを使う。実践を始めた2012年頃はiPhoneのiMovieが有料であったり、Android環境においては適当なビデオ編集ソフトがなかったりで、実践には苦労した。
「今ではほとんどの学生がスマホを持っているため、技術的な支援はほぼ不要になりました。もちろん、チャレンジしたい学生にはPCでの制作も奨励しています」
どのような内容でDSを作ったらいいか分からない学生も多い。
「よくある質問は、作品にするような体験をしていないので、何を描いたらいいのか分からないというものです。そういうときは、みんなに伝えたいことをテーマにするように伝えています。その結果、学生たちは本当にいろいろな作品を作るようになりました。DS制作で大切なのはメッセージです」
以前は「キャリアデザイン学入門」でDS制作を行っていたが、現在は映像制作を専門にする「メディアリテラシー実習」や、3・4年で履修する「キャリア総合演習」などで行っている。
「キャリアデザイン学入門でDS制作を行わなくなった理由の1つは、DS制作の経験がない教員にとって、指導が難しい面です。教える側を対象としたDS制作のワークショップや研修が必要だと感じています」
動画を共有するためのビデオサーバーも課題だ。「最初に使ったシステムは、動画共有に向いているとは言えませんでした。そこで、法政大学情報メディア教育研究センターに、ビデオ共有システムOATubeを開発してもらいました。大学版YouTubeと言えるものです」
OATubeは、国内外の小中高等学校や大学間の国際交流にも活用されている。日本語を学ぶ中国の大学生にDS制作を指導したり、坂本教授のゼミ生が、カンボジアの大学生のDS制作を支援したこともある。今後は、ユネスコや世界的な国際協働学習ネットワーク団体iEARNと協力しながら、動画による国際交流プロジェクトを進めていく考えだ。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年12月3日号掲載