eスクール・ステップアップ・キャンプ2019東日本大会が11月20日、横浜産貿ホールで開催され、約500名が参加。基調講演「教育の情報化の最新動向」やパネル討議、事例発表が行われた。パネル討議では、小柳和喜雄・奈良教育大学大学院教授をコーディネーターに、文部科学省教科調査官・鹿野利春氏、神奈川県教育委員会ICT推進担当課長・柴田功氏、つくば市立みどりの学園義務教育学校校長・毛利靖氏が登壇し、現状の取組や課題、他市・他県へのアドバイスなどの意見を交換した。
柴田氏は、神奈川県内全県立高等学校へのBYOD専用回線の敷設や全校への校内無線LAN、各校82台のChromebook整備などの県の取組を紹介。「ようやく昭和から平成の環境になった。今後、令和の整備を目指す」と語った。
毛利氏は、つくば市立みどりの学園義務教育学校で、21世紀型スキル、持続可能社会の実現、考え・議論する道徳、STEAM教育などのグランドデザインを作り取り組んでいる。プログラミング教育も全担任が実践。「これらの取組を実現しようとすると、ICT環境は必要不可欠。本校では校内無線LAN、各教室に65インチ大型提示装置などの環境がある。タブレットPCは300台あるが、毎時間稼働しており、不足している」と話した。
いかにステップを踏み、情報化を推進していくか。小柳氏の発問に対して、毛利氏は、「とにかく整備が先。大型提示装置や教育用PCをいつでも必要な時に使える環境整備が必須。整備では、教員研修後に整備する、という発想はダメ。教員は転任して入れ替わる。ICTが得意な教員を中心としながらも、全職員で取組を進めるべき。モデル校で検証後に整備、という方法も勧められない。3年整備が遅くなる。小学校の教科書が改訂される来年度は、整備にとって、大きなチャンス。つくば市ではデジタル教科書を活用しているが、大型提示装置とデジタル教科書を活用した授業は本当に楽しく、簡単にできる。大型提示装置の活用で児童生徒全員の考えをどんどんスクリーンに提示していくと、授業も児童もどんどん変わる」、「ICTはツールであり、その活用自体が目的ではない、と言われることは多いが、現在の学校の状況を考えると、新学習指導要領を実現するためにもまずはICT活用そのものを授業の目的とする、くらいの発想でちょうどよい」と話した。
鹿野氏は、「教員には縦横無尽にICT機器を活用できるようになってほしい。校内の全教員がICT活用に取り組み、新しい時代に必要な資質・能力の育成に向けて、授業設計、児童生徒の学びを作っていく必要がある。整備については、できるところから、が基本であるが、新しい技術が出れば社会はすぐ変わる。その中で2~3年待つのではなく、すぐに整備に取り組んでいただきたい。みどりの学園では、授業中、子供が『あっ、そうか』と繰り返していた。これは、知識が知恵に変わる瞬間だ。こうした学びを連続していくことが重要」と話した。
会場からは多数の質問がパネラーに寄せられた。
「クラウド活用は重要だが、家庭にネットワークがない、携帯がない子供にどう対応するか」、という質問に対して、毛利氏は「つくば市には教育クラウドがあり、小中学校用に約7万の問題が収蔵され、家庭でも利用されている。休み時間や放課後に図書館などを活用すればどうか」と回答した。
柴田氏は、「授業改善とICT整備は重なり合いながら進む。学習は50分だけで完結しない。家庭と学校の学習をシームレスにつなぐクラウドの活用は重要。インターネット回線も全員の活用に十分な太さが必要。自治体とは別の、学校の実態に合った情報セキュリティポリシーの策定も重要」と語った。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年12月2日号掲載