東京都世田谷区は、義務教育9年間を一体と捉えた質の高い義務教育を目指している。2018年度から2年間、「世田谷9年教育」研究開発校に指定された世田谷区立烏山小学校(坂本正彦校長)は、10月25日に「『STEAM教育』AI時代を生きる児童の育成~ICT活用、プログラミング教育、ものづくりを通して~」を研究主題に公開授業を行った。
烏山小学校では「ICT活用」「プログラミング教育」「ものづくり」の3つ視点でSTEAM教育を教科に位置付けて取り組んでいる。
同校では毎時間、児童がめあてを持ち、まとめやふり返りを行う。めあてを持つことで、児童が主体的に学習に取り組むようになる。また、まとめやふり返りを行うことは、学習の定着を図り、自分の学習態度を見直すことにもつながる。
「プログラミング教育」を主眼においた取組では、4年総合的な学習「安全・安心なまちづくり」で、信号が必要だと思う場所を地図から選び、歩行者信号機ロボットを設置して、赤信号の明滅や青信号の点灯などの時間を信号機にプログラミングした。他のグループの良い点や工夫を見つけ、自分たちのプログラミングに活かしている。ふり返りでは、どこに信号機を設置すれば危険を回避できるのか考え、実際の信号機のプログラミングについて興味を持つことにつなげた。
5年算数「正多角形と円」では、Scratchを使って正六角形のプログラミングに挑戦。
前時で正三角形を作図する際、「120度回す」を3回入力することを学んだ児童は、正六角形を描く際に「60度回す」を「繰り返す」ブロックでプログラミング。実際に描くことが難しい、角の数が多い正多角形も、数字を入れ替えるだけで作図できるというプログラミングの利便性に気付くようにした。
5年総合的な学習「こちら烏山情報局」では、社会科「車づくりにはげむ人々」において地球環境に配慮した製品開発について学んだうえで、ロボットカー「mBot」をプログラミング。超音波センサーを用い、前後に走らせる、音を鳴らす、LEDを点灯させるなど、それまで学んだことを組み合わせて、意図した動きとなるようプログラミングした。
「ものづくり」を主眼においた取組では、5年理科「電流のはたらき」で、電磁石を利用した紙コップスピーカーづくりに挑戦。身近にある様々な「モノ」には、必要な材料や仕組みがあることに気付くことがねらい。電流の大きさやコイルを巻いた回数により電磁石の力は変わる。では、どうすればスピーカーの音が大きくなるのか。試行錯誤しながら取り組んだ。
「ICT活用」では、2年生活科「えがおのひみつ たんけんたい」で、地域のことを知るため、町を探検して気になった場所を撮影。ペンツールで着目点を書き込んでタブレット端末から拡大して提示しながら説明し合った。話し合いの場面では、デジタルワークシートなどを活用し、見える化していた。
2014年より烏山小学校の授業研究を支援している東京学芸大学教職大学院・北澤武准教授は同校のプログラミング教育やICT活用について講評した。
従来の暗記型の学習から、いかに知識を活用するかなどの新しい学力観が求められている。ICT活用やプログラミングは、各教科等の資質・能力の育成を重視しており、児童の実態を分析・評価しながら実践する必要がある。
深い学びとするため、最初の自分の考えと比較するなどのふり返りが重要だ。公開授業では、最初に自分の考えをまとめた上で、グループで共有し、さらにグループで決定した最適な意見をクラス全体で共有していた。授業のまとめをワークシートに記入するなど、アナログも活用して授業が進められていた。
「小学校におけるSTEAM教育のこれから」をテーマにパネル討議が行われた。パネリストはソニー教育財団 理科教育推進室長・武藤良弘氏、順天堂大学 非常勤講師・齊藤智樹氏、烏山小学校・保田誠之主幹教諭、コーディネーターは北澤武准教授。
プログラミング教育を通して育む資質・能力を武藤氏は次の4点に分類。①身近な生活でPCが活用されていることに気付く、②問題の解決には必要な手順があることに気付く、③プログラミング的思考を育む、④PCの働きを、より良い人生や社会作りに役立てようとする態度を涵養する。
PCなしでも育成可能な②と③を既存の授業で育むことを提案した。
AIの時代だからこそ、目的を自ら考え出す力が求められる。プログラミングの授業では目的の設定が大事。プログラミング的思考の育成を通じて、様々な物事の原因を見出したり、他の物事と関連付けたり、新たなものを創り出す力が培われる。実際に役立つものを作り上げることで、自分にもできるという自信につながる、と話した。
齊藤氏は「STEMA教育は課題設定が重要。自分が本当に解決したい問題に取り組み、解決策を構築して、その妥当性を議論し、改善して発表すること。一教科の授業では時間数の都合上、改善まで行うのは難しいかもしれないが、単元レベルで授業構成を行えば可能ではないか」と話した。
保田教諭は「未来を見据え、自分の生活に役立つ物を作ることは、社会に開かれた教育課程とつながる。それを子供のうちから意識して養うことが重要」と語った。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年12月2日号掲載