学校健康診断結果は義務教育段階が終わると、5年間の保管期間を経て廃棄されていることから、これを電子化・蓄積することで、生涯にわたる健康の保持増進に効果的に役立てるなどの仕組み作りに向けた検討が進んでいる。11月15日に行われた第2回「データ時代における学校健康診断情報の利活用検討会」では、実際に初等中等教育関連の学校健康診断結果を分析・提供している「(一社)健康・医療・教育情報評価推進機構(HCEI)」の川上浩司教授(京都大学大学院/HCEI常務理事)がデータ活用の成果と可能性について報告した。
川上教授は、学校健康診断情報のデータ蓄積・分析について「現在、学校健康診断結果は地域に還元できておらず、学齢期を過ぎると個人にも還元できていない。これを蓄積・分析してすべての人に健康情報を還元することで、人生の健康の基盤作りにつながり、予防医療や難病治療の可能性も期待できる」と述べる。京都大学の行った調査では、体重や口腔衛生と学力の間には相関があるという結果が出た。また、小学校のときに糖尿病や生活習慣に関する授業を提供すると、その後の意識に変容が起こるという結果も出ている。
2015年に設立した「健康・医療・教育情報評価推進機構(HCEI)」では現在、141自治体と連携して、無償で健康情報を収集・分析・還元している。学校ごとの健康状態は予想以上に異なっており、例えば、同じ地域でも1校だけ著しく悪い、などがわかる。個人に情報を還元することで、子供の健康状態への保護者の関心は増し、保護者自身も、特定健診への受診意欲が高まったという。健康の側面から、将来の自治体の財政予測などを立てることができ、これを基に自治体は政策を立案できる。
データの取り扱いについても慎重を期している。HCEIでは、学校の健康診断帳票を、AIを併用したOCRを用いてデータ化。電子化されたデータは「健康情報」と「個人情報」に切り分け、分析のために外部に持ち出すデータは「健康情報」のみとしている。外部機関において情報漏えいが起こったとしても、個人情報は一切漏えいしない。これら分析結果を自治体等に還元・提供する際に、2つの情報群を結び付けて閲覧できる、という仕組みだ。
本サービスについてはさらに100以上の自治体が参画を検討しており、学校向け説明用資料も提供している。「HCEIの取組は、現在は自治体のみだが、全国的な取組とすることで地域特性の理解が進む。そのためには学校現場の理解が必須。紙帳票をデジタル化する際の効率的な方法についても検討してほしい」と話した。
なお乳幼児健診は2020年6月からデジタル化が必須となっており、乳幼児健診を受ける保護者には電子生涯健康手帳(PHR)を無償で提供。永続的に保有できる。
「データ活用の有用性は理解できるが、将来的にどのような分析に活用されていくのかを把握しきれないという点が不安。保護者が納得できる説明は難しいのでは」という意見に対して堀田龍也委員(東北大学大学院)は、「将来的には電子データとして蓄積、分析していくことが理想だが、データ提供に関する戸惑いを払拭するためにも、まずは健康診断の紙の帳票をPDF化して家庭に戻すなどの取組で利便性を体験しながら、2020年以降の体制作りを検討、移行してはどうか」と提案した。
統合型校務支援システムには健康保健管理機能を持つものが多いが、すべての自治体で導入はされていない。一方で、学校保健システムのみを導入している地域もある。本取組により、統合型校務支援システムと2020年以降提供されるPHRとの連携の在り方、長年継続してきた学校における健康診断の役割や在り方を見直すきっかけにもなりそうだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年12月2日号掲載