第45回全日本教育工学研究協議会(JAET)全国大会島根大会が10月18・19日に島根県で開催され、約700名の教育関係者が参集した。初日午前中の公開授業は雲南市木次中学校区の小中学校5校と同地区の子供の8割が通う県立高等学校1校で行われた。全体会では学校情報化認定で5校が先進校として認定・表彰された。2日目は全国の教育関係者が100を超える多彩な研究を発表した。
公開授業を行った雲南市の景山明教育長は「各教室にプロジェクター、実物投影機、授業用端末を整備したことをきっかけに、授業が劇的に変わった。整備して良かった。複式学級など小規模校が多い雲南市では、多様な価値観に触れる機会が少ないことが課題。遠隔教育によりこの課題を解決できる可能性があると考えている。ICTは、教員の授業力により一層、光彩を放つ」と語った。
開会式で木次小学校の大島悟校長は、雲南市の研究概要を説明。
島根県の教育環境のICT化が必ずしも進んでいないなか、雲南市のICT環境整備は、2016年度にプロジェクターや実物投影機、タブレット端末を全教室に配備したことから始まった。
木次小学校にパナソニック教育財団の支援なども受け、2018年度から木次中学校区全体で本格的な取組を開始。全体テーマを「夢を拓く!未来社会への課題に対応できる資質能力の育成」とし、特に課題対応力や伝え合う力、情報活用能力の育成を重視。中でも情報活用能力を最重要視して「木次中学校版情報活用能力系統表」を作成。これを基に、各校で情報活用能力育成に向けたカリキュラムを作成している。
授業づくりについては5つの視点を大切にして組織的に授業改善。これを踏まえたICT活用に取り組んでいる。
ICT環境整備後は、まずは教員活用から研修。ICT環境を整備してから、文部科学省「学校における教育の情報化の実態等に関する調査・教員のICT活用指導力」において大項目B「授業中にICTを活用して指導する力」は大きく高まっている。互いの学校の研究会に参加し合いながら今年度は教員のICT活用とともに児童生徒のICT活用も始め、協働的な学びが生まれる授業改善に取り組んでいる。
JAET大会開催が決まってからは、公開授業校担当となったJAET役員の助言を2月と6月に受けるとともに、雲南市全体で授業づくり研修を行った。
全校児童33名の小規模校である西日登小学校では、2017年度から中学年と高学年が複式学級になった。
同校では「西日登小学校版情報活用能力・指導計画」を策定し、昨年度までは算数を中心に「子供がつくる授業」に取り組んでおり、友達と話し合いながら解決することができるようになった。
人数が少ないため1人ひとりが活躍する場面が多く、低学年から表現の機会も多いという強みがある。デメリットは、多様な考え方を出しにくく分析などに弱い点であると考え、今年度からはより深い学びに向け、教科の枠を超えたICT活用に取り組んでおり、低学年からプログラミング教育も実施。ロボホンを使った学習は、プログラミング学習の良い動機付けになった。表計算ソフトについても学習。児童は児童集会などで活用するようになった。
授業は、5・6年複式学級「算数」を公開。授業者は関野恵愛教諭。5年は「正多角形と円周の長さ」で正多角形を描くプログラミング、6年は「資料の調べ方」で、データサイエンスに取り組んだ。
6年生は「図書の年間貸し出し目標数60冊」について、4~9月までの全児童の貸し出し数を調べ、分析して「目標達成に向けて順調か、順調ではないか」を検討。表計算ソフトに入力したデータの「最大値」「最小値」「最ひん値」それぞれについて調べ、どう判断すべきかを2人で考え、その結果を発表し合う。
発表の際には係の児童が電子黒板上に提示した表計算ソフトの画面に皆の発表を書き込みながら進行。1グループの発表ごとに、電子黒板画面は、教室内に設置してあるプリンターで出力。黒板に貼り、その後の話し合いや、6年生に戻ってきた教員が進捗状況を確認することに役立っていた。
5年生は、前時の復習として正四角形のプログラミングを行ってから、正三角形のプログラミングに挑戦。2人で1台のiPadを使い、2組4人で取り組んでいる。互いの画面は電子黒板を2画面提示して、進捗状況をチラ見できるようにしていた。
正三角形のプログラミングに成功した後は、正五角形や正六角形にも挑戦。
端末画面上で成功した後は、プログラミングロボットカー「Codey Rocky」で、プログラムのとおりに正三角形や正六角形を描画できるかどうかに挑戦。「Codey Rocky」には、動かないように鉛筆を固定。ロボットカーを走らせるスペースとなる机は模造紙で包まれており、ロボットカーを動かすと、鉛筆で五角形などの軌跡が描けるようにした。失敗すると児童は軌跡を消しゴムで消している。児童は調整しながらロボットカーを何度も走らせていた。授業前半に活用したScratchベースのプログラミングツールは、「Codey Rocky」用のアプリとして提供しているもので、通常のScratchよりも動きがゆっくりとなる、キャラクターを変更できるなどのカスタマイズを加えている。本授業では矢印を抱えたパンダを使用してプログラミングを検討しやすくした。
授業指導者の豊田教授(和歌山大学教職大学院)は「複式教育の場合、情報活用能力を『発揮できる力』が特に重要。統計の取り方によって結論が変わることから、人の捉え方により世の中の記事や報道、うわさなどあらゆる情報が変わることにたどりつくことができた。複式教育の良さを生かした学びを今後も研究していきたい」、プログラミングについては、人の手では無理なこともプログラミングならできる点を実感できる事例を示した。
授業を見学した髙橋良祐氏(元港区教育長、公・才能開発教育研究財団・日本モンテッソーリ教育綜合研究所所長)は、「子供同士で主体的に学びを進行させながら学ぶ姿に、今後の日本の学校のあるべき姿を見ることができた。廊下も広く開放的で、教室スペースと合わせて活用できるなど、未来の学びを実現しやすい学校建築にも驚いた」と感想を述べた。
木次中学校(生徒数201名)では、課題対応力、伝え合う力、情報活用能力の3点を特に重点的に育みたい資質・能力と考えて授業づくりに取り組んでいる。
2年数学「一次関数の利用」では、3社の携帯電話の料金プランの比較を通じ、使用量と料金の関係を知ることで一次関数を学ぶという題材の工夫がみられた。生徒用端末は2人に1台で活用し、3つのプランのグラフを重ねて比較。「最も安くなる条件と根拠」についてペアで話し合い、おすすめプランを考えて説明、討論した。
3年国語「おくの細道」では、芭蕉が8か所それぞれの地で作成した俳句から、ペアで一箇所選択し、旅プランをプレゼンした。生徒用端末2人に1台で発句した土地や句について情報を収集。各所を訪れたときの芭蕉の心の動きを追体験して捉え、旅プランのキャッチコピーや説明文を作成。表現を吟味した。授業時間の8割程度が生徒の活動で成立していた。
3年理科「放射線の性質と利用」では、放射線に関する「学級の探究課題」を決める。「問い」を教員が設定するのではなく、自ら設定するという授業観の転換が見られた。生徒用端末はグループに1台で活用。放射線に関する事前アンケートを踏まえ個人でワークシートにまとめ、グループでそれぞれの共通点をまとめて端末からアップロード。全体で「問い」を検討した。
寺領小学校(児童数54名)では、全学年で学校裁量の時間「プログラミングの時間」を設けている。授業公開では3・4年生の複式で、プログラミング教育未経験の教員2名がT1、T2としてC分類「教科外のプログラミング学習」に取り組んだ。
教員は2年生のときに行った「町たんけん」の画像を見せて学習を思い出させ、どこに行きたいのかを考えさせた。児童は写真カードから1つ選択。「まなボード」に挟んだマス目に、学校→目的地→学校のコースを作り、マウス型ロボットを走らせることに挑戦した。まなボードだとロボットの動きを矢印で書き込んで確認でき、書いたり消したりが簡単だ。動きを決めたら、ロボットの背中にある矢印ボタンを動かしたい順番に押して、スタートボタンを押すと指示した順番通りにロボットが動く。一度で成功したグループは嬉しそうに歓声を上げた。
同校の小田川徹哉校長は「学校裁量の時間とすることで、教科の目標に縛られず負担感なく取り組むことができ、児童は試行錯誤やプログラミングの楽しさを体験できる」と語った。
6年特別活動では、「全校に自分たちの睡眠について考えてもらう」ことをテーマに取り組んだ。児童は睡眠時間についてクラスや自分の傾向などについて表計算ソフトを使って分析し、表やグラフにまとめてプレゼンテーション。意見を出し合った。表計算ソフトのスキルは授業進行に支障がないレベルまで向上。プレゼンテーションについてはこれまでも取り組んでおり、「学年に合った発表」「クイズ、インタビューなど双方向性を取り入れる」「グラフ、動画をつくる」「6~12ページ程度」などのルールを作成している。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年11月4日号掲載