高橋純准教授(東京学芸大学)は、学習指導面と教員の業務改善の効果検証を目的に、ビジネスインクジェットLモデルA4カラー複合機(以下、カラー複合機)を「小中学校の普通教室に常設」することによる教育効果を検証しており(一部学校では廊下に設置)、「教室にカラー複合機が常設されると、教室での校務が可能になり、予想以上に教員の業務改善に役立つことがわかった」という。実践の成果を聞いた。
技術革新の波は、プリンターにも到来している。本実証は、コンパクトなカラー複合機の新製品がきっかけで始まった。
高橋氏は「30年前と同様の学校の印刷環境と印刷業務が教員の負担になっている面がある。印刷補助員配置のような人的支援に加えて、教室で印刷できるようにして『ながら仕事』を可能にすることで、教員負担の一部を軽減でき、業務改善として役立つのではないか」と考えた。
そこでカラー複合機を小中学校に常設。昔ながらのインクジェットプリンターとは異なり、印刷は途切れず速く、インク交換の手間もかからない。複合機なので、スキャナーもコピーも活用できる。「1人1台端末環境やクラウド活用、ネットワーク活用など、『使ってみないとわからない』ことが今、大量に起きている。この便利さを口で伝えることは難しく、体験して感じるしかない。プリンターも同様で、機能的にもコスト的にも様々な進化が見られる。メールアドレスに送ると印刷できる、自宅から印刷指示して学校で回収できるなど、便利な機能が増えており、活用してみて初めて分かる便利さがある」
高橋氏は「児童生徒1人1台端末環境にない学校にとっては、カラー印刷が手軽に教室でできることで、タブレット端末が果たす役割の一部を担うことができるようだ。情報の共有が進み、協働学習を円滑に進めるきっかけにもなる。スキャンしたデータを保存するときにクラウドを選ぶこともできるので、BYOD環境で児童生徒の端末が異なったとき、プリンターを使って共有する手段があると使いやすい」と話す。
1人1台端末環境は、自治体規模が大きいほど、実現に時間がかかる。そこで、教育現場に受け入れられやすいICT環境の1つとして、カラー複合機の活用に可能性を感じているという。
4~7月の活用状況を調査したところ、次の効果が明らかになった。
「職員室に行かなくても教室で印刷できる」ことで、教室で、授業中や休憩時間などの隙間時間で臨機応変に印刷ができるようになる。児童生徒に印刷をさせることもできる。4~7月の間に「休み時間で印刷した」案件221件を仮に職員室で行ったとすると、往復5分間かかる場合、約18時間の時間短縮になる。
学校におけるカラー印刷ニーズの高さが明らかになった。特に授業関連の活用が多い。
最大でプリンター1台あたり1万2000枚(4か月間)印刷した学校もある(平均値約3700枚)。コピーの最大値は1台あたり約9700枚(平均値2000枚)、スキャナーの最大値は約2900枚(平均値約500枚)。
児童生徒用端末が1人1台環境ではない教室の方がプリンターやコピーの活用が明らかに多い。1人1台端末が配備されている学校では、スキャナーの活用が多い傾向にある。
「小テストや定期テストはモノクロ」が一般的だが、例えば「花こう岩」の図版の選択問題で正解できる生徒であっても、「実物の花こう岩」を見てもわからない、という実態がある。「花こう岩」の実物を撮影した写真を使った学習やテストを行うほうが、学習効果は高い。
板書の印刷、ノートのコピー・スキャンなどで中学校でも予想以上に活用。情報共有が進み、議論の活性化やポイントのふり返りなどに活用されている。
カラー複合機により、書くことに困難がある児童への対応方法が増えた。特別支援教育向けに様々な教材をすぐに作成できるようになった。
「カラー複合機」検証校からは続々と活用事例と効果の報告が届いている。
各教室に1台設置。
11台を設置して学年ごとに1台を共有。
プリンター4台を6年生が各教室で活用。
これまで担任が休日出勤して印刷していた宿泊学習や修学旅行のしおり作りでは、原版を印刷してまとめてスキャンし、A5用紙に一気に両面印刷できた。ページ合わせも帳合いも不要で時間短縮につながった。集合時間など特に重要な部分を色付けしてカラー印刷できたので、わかりやすく指導もしやすかった。
理科のプリント提出をデジタルのみとした。ワークシートやディスカッション資料、プレゼン資料を作成するためにコピーやスキャナー機能を活用している。プリンタードライバーもカスタマイズ。「コピー、スキャン(クラウド・両面カラー)、スキャン(NAS・両面カラー)などを選択できるようにした。
EpsonConnectのメールプリントを利用。関係者のみプリントできるようにした。
通級指導教室に通う児童への教材作りに活用。工作や調理実習の手順もカラーだとわかりやすい。子供はカラーに慣れているので、白黒から想像するよりも、実物に近い色であった方がよりイメージしやすく親近感が持てるようだ。
プリンターを教室後方に設置。
■使用機種・環境 ∥「PX-M886FL」A4サイズ・カラー1枚2円、モノクロ1枚0・8円、印刷速度24枚/分。印刷、コピー、スキャン、ファクス、ADFができる。大量印刷可能なインクパックを標準装備。(1校のみA3印刷可能な「EW-M5071FT」を活用。印刷速度18枚/分)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年10月14日号掲載