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教育ICT

北欧のプログラミング・STEAM教育

2019年9月6日
科学技術立国日本の人材育成

来年度から日本でもプログラミング教育が始まる。既に6~7歳児からプログラミング教育に着手しているエストニアやフィンランドでは、どのような環境・内容でプログラミング教育を行っているのか。(日本教育情報化振興会海外調査部会2019エストニア・フィンランド視察報告会及びNewEducationExpo「エストニアの教育事情」講演より)

【エストニア】
ロボットで抽象概念理解
コーディングは6歳から

国の情報管理“信頼前提”の仕組み
グループワークで問題解決学習

1991年にソ連から独立し、現在「IT先進国」「電子国家」といわれている北欧のエストニア共和国(以下、エストニア)。人口約132万人と沖縄県の総人口と同程度の規模だ。歴史的な背景から、今後も国を永続させるためにエストニア人がとった方法が「国家の電子化」である。「安全で信頼できる個人情報管理」が基盤となり、「一度入力したデータは二度と入力しない」仕組みを徹底している。これに伴い子供たちが将来、「世界で勝負する」ために必要な能力として、学校教育から生涯教育まで、国を挙げてデジタル・リテラシーを高める教育にシフトしている。

■HITSAが教育ICTをサポート
 様々な教材でコーディングを学ぶ

様々な教材でコーディングを学ぶ

ICTの教育利用を促進するために2013年、「HITSA」を設立。ロボティクス、数学的な問題解決学習、Critical Thinkingの育成等において、幼稚園から高等学校まで、プログラミング教育のための教材開発や指導方法に関する教員研修を提供している。

HITSAが提供する教員研修は、エストニアの教員2万5000人中、年間3000~4000人が受講しており、現在、全教員の約20%が研修を修了。教員向けオンライントレーニングサイトは、コースを最後までやり遂げれば無料だが、途中でやめると有料だ。個人情報の電子管理が徹底していることで可能になる仕組みである。

2018年から、26人のメンターが学校や幼稚園を、ネットワーク経由で支援。メンターは現在、国全体で26人(各県2~3人程度)。HITSAでは「メンターには教育とICT、2つの経験が必要」と考えており、その適性を判断している。

HITSAは様々な教材をオンラインで提供している

HITSAは様々な教材をオンラインで提供している

教科「コンピューティング」は2014年度から開始。110万ユーロで522の教育機関に備品を配備。各学校が予算を得るためには、活用方法のアイデアやその効果検証が必要だ。

プログラミング教育では、限られたシンボリックな命令で動くロボットを用いたコーディングを幼児期から小学校低学年段階に体験。次にコンピュータによるプログラミング学習を体験。日本でいう「論理的思考力」すなわちロジカルシンキングの基礎を学んでから、プログラミング学習でコンピュータによる表現活動や入出力制御問題などのComputational Thinkingすなわちコンピュータ的思考の育成を図るという手順だ。

高等学校では、これにプログラミングをツールとしたコラボレーションによる問題解決学習が加わる。

数学の抽象的な概念を理解する目的で、教育用ロボットを活用した授業も多い。

自律型ロボットを用いた地域のロボット大会も盛んで、チームでプログラミングスキルの向上に熱心に取り組む生徒も少なくない。

日本では、教育現場に受け入れやすいように、という意図もあり、小学校から開始するプログラミング教育は「コーディングを目的としない」ことを強調しているが、エストニアではコーディング=ロジカルシンキング、と位置付けている点が興味深い。

スタートアップ起業家をより多く輩出することを目指しているエストニアでは、プログラミング教育も、国が提供する様々な「起業家輩出のための支援」の1つである。高校生が現実社会の課題を、ICTを駆使して協働で解決する問題解決学習に取り組み、そのアイデアや成果物が有用であると判断されれば企業に採用される、という仕組みもその1つだ。

校務処理も授業中に個人スマホも持ち込み自由
校務は授業の合間に教室で行う

校務は授業の合間に教室で行う

国が採用している校務・学習システム「eKool」は、マストではないが9割以上の学校が活用。保護者は子供の様子をいつでも閲覧できる。校務用端末は学習系と一体で、BYODも自由。学校にPCはあるが、子供は自分のスマートフォンも自由に校内のWiFiに接続して活用している。

教員は授業終了後の休み時間に、それぞれの教室で、出席確認・所見入力・保護者メールの確認等を行っており、職員室で校務処理をすることはほぼない。なお小学校~中学校までの9年間の評価は、児童生徒の学習意欲や態度などのコメントを保護者にフィードバックするという形。日本で行われている「成績評価」はない。

教員の異動は基本的になく、小学校6年間もしくは中学校3年間を同じ教員が担当。児童生徒1人ひとりの学びや成長の過程をきめ細かく管理している。

タリンシダリナスクールでは、WiFiは3種類あり、児童生徒は自由に接続でき、学校への来訪者も接続できる。個人情報保護については国に絶大な信頼を置いている。オンラインでの活動はすべて記録が残り、衆目の目と知で安心と安全が担保されるという考えだ。「インターネット犯罪」は罪も重い。セキュリティ防御に関する意識は日本とは大きく異なるようだ。

VRやARの教育利用も進み、小学校4年生から活用する学校もある。英語の授業で、ロンドン名所をVR体験したり、タリン工科大学の研究室を訪問して、建築分野のVR体験をしたり等、種々のコンテンツが開発されている。ただし保護者は、子供がVRゴーグルを使用することを許可・署名する必要もある。

【フィンランド】
オンライン環境で“倫理的”にふるまう

“ものづくり”“起業”に必要な学びを提供

「ものづくり」の施設は伝統的に充実している

「ものづくり」の施設は伝統的に充実している

PISAによる学力の高い国として一躍注目を集めたフィンランドの現体制は90年代の教育改革で培われた。教科書検定を92年に廃止して学習指導要領を3分の1に削減。教員資格を修士修了とし、教育実習期間は約半年にわたる。

獲得する知識量ではなく、知識を獲得するための過程を重視。児童生徒により学習内容も進度もゴールも異なっているため「落ちこぼれ」の概念は日本とは異なる。

2014年に改訂されたカリキュラムにより、プログラミングは小学校1年生から必修になった。教員がプログラミングに詳しくなる必要はなく、児童生徒の主体的な学習をサポートするファシリテータとして、学習環境を整えることが求められている。

学習活動は教科横断型が多く、グループによる協働学習が主流で、評価に児童生徒も参加する。

1・2年生は、遊びを通じて論理的な思考を育成。3~6年生ではScratchなどを使ってゲームや動画作成の体験を実施。プライバシーと著作権を尊重し、オンライン環境で倫理的に行動する場面も設定する。7~9年生では、最低1つのプログラミング言語を学ぶという流れ。

教科学習には7つのコンピテンスの育成を盛り込んでいる。そのうちの1つ「ICTコンピテンス」では、2年生までにキーボード入力スキルを身に付け、年齢に応じたプログラミングを経験する。3年生以降で、情報モラルや情報の取捨選択・評価の重要性に気付き、ICTを利用したコミュニケーションを体験する。9年生以降でデジタル作品の共同制作、教科の一部でプログラミング活用、ICTを活用した国際交流などが盛り込まれる。

デジタル化の一方、ものづくりに対する教育にも力を入れ、感性や創造性・独創性を育む技術家庭や音楽教育は伝統的に充実している。

ICTの授業での活用度は、小学校はEUの平均より低いが、中学校では平均程度、高等学校では平均を上回る。

セキュリティにおいてはエストニアと同様、ネットワーク分離という概念はなく、教室で常に校務支援システムを利用できる。校務支援システムは「Wilma」がほぼ独占。新入生データは役所と連携して登録される。教員は授業中に評価コメントを入力して保護者に送信。児童生徒の学習履歴を一元管理するとともに学校と家庭の連絡帳的な役割も果たす。

フィンランドのSIMONKALLIONスクール(小中一貫校)は音楽教育に特長を持つ学校で、2014年から算数でもプログラミング教育を実施。児童生徒数600人に対して384台のタブレットPCをWiFiで活用している。3年生はロボットを動かす体験から始め、6年生は自律型ロボットをプログラミングしている。

サウナラハティ総合学校(幼小中一貫校。6~16歳が在籍)は、生徒数約800名、教員数約100名。そのうち30名がアシスタントスタッフだ。6歳からICTに接しており、5年生以上はタブレットPCを1人1台環境で活用できる。持ち込みで個人のスマートフォンも活用できる。

学校はデザイン性の高い建築で、感性の育成を重視。感性教育は起業家を始めとするスタートアップのために必要なスキルであるという位置づけだ。

教科書発行会社は3、4社程度。教科書の法的使用義務はないが、教科書を使用しない教員はいない。教科書のトップシェア「samoma」(フィンランド、ベルギー、オランダ、ポーランド、スウェーデンで事業展開)では、教科書利用を促すサポートツールとして、AR教材やゲーム性のあるデジタル教材、学習進捗状況確認ツールや教員研修コンテンツなどを提供している。本年9月から新規に授業計画のための新ツールも提供。「samoma」担当者は「フィンランドにおいて、教員研修に対する投資はまだ十分ではない」と考えている。

富山大学名誉教授 山西潤一
“世界の潮流”意識したプログラミング教育へ

エストニアもフィンランドも、社会全体で国民のデジタル・リテラシーを高めるという意識をもって、プログラミング教育を問題解決能力の1つとして位置付け、学校では問題解決型学習(PBL)を中心に授業が進められている。

グループでの協働学習活動が多いため、教員は授業の最初に、何のためにこの活動を行うのか、その目的や活動の意義をしっかりと考えさせる。高校では、起業家マインドを育てるアントレプレナー教育や協働作業能力の育成に力を入れ、生徒は将来自分が進む道を考えながら学ぶ。

プログラミング教育におけるコーディングの考え方も日本とは大きく異なり、幼稚園から、単純なコードを組み合わせて論理的な思考を育成するツールとして、ロボットを用いた遊びや表現活動が行われている。

学校のネットワーク環境も充実。校務系と学習系は一体化され、教員はいつでもどこでも必要に応じて活用できる。児童生徒も学校内で自分のスマートフォンを使い学習や宿題に取り組み、休み時間にはゲームも楽しむ。ただ、ランチルームでの使用を禁止するなど、スマートフォンの健全利用の教育もしっかりとされている。地域と連携した放課後学習も盛んだ。

日本のプログラミング教育では、「プログラミング的思考」を育成することが目標とあるが、この表現は非常に曖昧な表現だ。

プログラミング教育の先進諸外国では、プログラミングはIoT・AI時代にあって、問題解決能力を育てるツールとして位置づけ、「論理的思考力(Logical Thinking)」や「コンピュータ的思考(Computational Thinking)」を育成している。

来年から日本においても、プログラミング教育がいよいよ本格的に実施される。ブラックボックス化した「魔法の箱」を理解するためにも、プログラミング教育の充実を期待したい。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年8月5日号掲載

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