マイクロソフト(以下、MS)の教育プログラムの基盤を立ち上げたアンソニー・サルシト氏が世界の教育のトレンドと同社の取組の方向性について語った。2009年から副社長。
今、世界中の「教室」で教育改革が起こっている。ある教室では、隣のクラスとは大きく異なる学びが行われている。この現象は、日本を始めとしてあらゆる国で起こっている。教員が尊敬され、理想の職業の1つと考えられている国・地域のほうが、より改革がうまくいっているようだ。
なぜ教育改革が必要なのか。それは産業界が大きく変わり、求められるスキルも変わっているからだ。
このスキルはテクノロジースキルにとどまらない。テクノロジーを活用しながら粘り強くコラボレーションしつつ創造性を発揮するスキルである。ソーシャルスキルはデジタル時代にこそ、強く求められる。社会性や感情の学習は特に重要で、これがなければ成功できない。
「子供たちが自信をもって世界の問題解決に取り組めるような教育を行う」というマインドセットが、教育改革の第一歩になる。PC整備が第一歩ではない。学びと未来がマッチしていることが必要だ。自分が今学んでいることにどんな意味があるのかを理解できると、成功できる学生を輩出できる。
例えばMSでは、情報活用能力があり、コラボレーション能力があり、クリエイティブな人材を採用している。そんな力を育む教育は何か、共通理解することだ。
今求められているのが、世界で生まれた様々な技術に対応できる人材の育成だ。量子コンピューターの持つ新しいパワーやブロックチェーン(データベース技術)、AI、IoT、MR(複合現実)など、これらを現実世界に落とし込むことができる創造力を持つサイエンティストが必要だ。
MSではこの重要性を意識して教育分野における提供物を強化するため買収(※)を進めてきた。MSの成功ではなく子供たちの成功を考えている。(※オープンワールドゲーム「Minecraft」、ビジネス向けSNS「LINKEDIN」、教育向けSNS「FLIPGRID」、ソフトウェア開発プラットフォーム「GITHAB」、教育分野のデータ分析プラットフォーム「DataSense」などを買収済)
1970年から本格的に教育投資をスタートしたフィンランドでは「子供の幸福・満足感」を最優先課題としている。
エストニアではアート教育やアントレプレナーシップが根付いており、そこにICTも加わっている。データ活用も盛んだ。
オーストラリアでは2012年から10年計画でSTEM人材育成に取り組んでいる。
教育改革を成功するためには、意図的に取り組み、教育投資は持続可能な未来をつくるということに自信を持つこと。
PCやネットワーク整備が困難である、とあきらめる必要はない。今すぐに活用できる学校外にあるテクノロジーも活用すればよい。教員の多忙化をテクノロジーで解決す視点も必要だ。適切なときに適切なものを提供する仕組みの導入で、1人ひとりの学びを豊かにしていくことができる。
クラウド技術も、新しい能力として活用できるものだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年7月8日号掲載