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教育ICT

RoundTable「ICTの進化を教育に活かす~文科省×レノボ×NTTドコモ×日本MS」

2019年7月9日

いつでも、どこでも、誰もが、同じ学びを共有する

次の学習指導要領では、Society5・0の実現に向けて子供たちが未来を生き抜く力を身につけることを想定し、情報活用能力の育成や、それを支える基盤としてのICT環境整備の必要性が明記されている。ICT環境整備が急速に進みつつある一方で、国が求める基準にはまだ遠い、という面もある。そこで文部科学省は、昨年11月、新たな新時代の学びを支える先端技術のフル活用に向けた基本的な方向性「柴山・学びの革新プラン」を、今年6月、「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」を公表した。学びを支えるICT環境整備のボトルネックをどう解決していくのか。文部科学省初等中等教育局視学官・安彦広斉氏と、新サービスを協力して提案するレノボ・ジャパン代表取締役社長デビット・ベネット氏、NTTドコモ第一法人営業部長(地域協創・ICT推進室担当)齋藤武氏、日本マイクロソフトパブリックセクター事業本部・文教営業統括本部統括本部長の中井陽子氏が意見を交わした。

 

 

「新しい学び」にICT活用は大前提

--ICT環境整備のボトルネックは何か
文部科学省 安彦 広斉氏

文部科学省
安彦 広斉氏

安彦 これまでの学習指導要領と大きく異なるのは、Society5・0の実現のための人材育成に向けて、「何を教えるか、学ぶか」だけではなく、「どのように学ぶか」そして「何ができるようになるか」まで学校の教育が問われている点です。よりよい学校教育を通じてよりよい社会を創るという目標を共有し、社会と連携・協働しながら、未来の創り手となるために必要な資質・能力を育む「社会に開かれた教育課程」を実現しようとしています。

「どのように学ぶか」という点では、「主体的・対話的で深い学び」の視点で授業改善を行うことで、学校教育における質の高い学びを実現し、学習内容を深く理解し、資質・能力を身につけ、生涯にわたって能動的(アクティブ)に学び続けることを目指しています。例えば、学んだ知識が人生に活かすことができることがわかれば、学びは、より定着します。新たな知識が既得の知識及び技能と関連付けられ、他の学習や生活の場面でも活用できるような確かな知識として「生きて働く」ものとして習得されるようにしていくことが重要なのです。こうした学びは、脳科学的にも認知科学的にも効果を発揮するといわれています。

このような学びを実現するツールとして、ICTの活用は欠かせないものです。時間や場所を越えた多様な人や情報との対話等を通じて、知識を相互に関連付けてより深く理解したり、情報を精査して考えを形成したり、問題を見いだして解決策を考えたり、思いや考えを基に創造に向かう「深い学び」の実現につながるのです。現在担当しているグローバル・イノベーティブ人材育成事業に取り組む学校を視察した際、高校生は1人1台のPCで、国内外の他校の高校生たちや教員が同じ空間にいるかのようにテレビ会議で海外研修の事前学習をしたり、グループでの探究活動で、必要な場面を判断して活用したり普段使いをしていました。一方で、PISA2015年「ICT活用調査」によると、日本の学校において「他の生徒と共同作業するためにコンピュータを使う」頻度はOECD諸国で最下位でした。子供たちの授業活用が大変遅れているのです。

新しい学習指導要領に情報活用能力の育成やICT環境整備の必要性が初めて明記され、待ったなしの状況となりました。ここで一気に遅れを取り戻すことが、すべての学校設置者に求められています。

日本マイクロソフト 中井 陽子氏

日本マイクロソフト
中井 陽子氏

中井 日本におけるICT環境整備の遅れに対する課題は、かなり共有されていると感じています。大きく「予算確保」「教員の業務負担」「授業コンテンツ」の3つあると考えています。予算確保については、首長を筆頭に「新しい学びが地域活性化につながる」ことを理解している自治体は、予算確保を円滑に進めることができるようです。

2つ目と3つ目の課題は密接な関係にあります。テクノロジーはどんどん進化していきますから、継続的にデバイスを活用するためには、ICT支援員のみでは難しく、定期的な教員研修が必要です。しかし、日本の教員はその時間を確保することが難しいようです。部活動も保護者対応も担っており、さらにインターネット分離を基本とした環境では、ほぼすべての仕事を学校で行うことになります。働きやすさという土台がなければ、新しいものを導入してブラッシュアップするなどの継続性のある取組は困難になりがちです。

NTTドコモ 齋藤 武氏

NTTドコモ
齋藤 武氏

齋藤 ドコモでは、地方創生や地域活性化に注力しており、地域に貢献でき、世界に通用する人材育成の支援を展開しています。首長が、AI時代に向けてどのような力が必要かについてなどを理解しているところは予算を確保しやすく、環境整備に成功していると感じているところです。

ICT環境整備の課題として、日本のICT環境がスタンドアロンのPC教室から始まっていることから生じる壁を挙げたいと思います。

PC教室整備から始まり、LAN整備やWiFiなどを追加して、校務で教員が活用する、教室でも1人1台環境で活用できるというネットワーク環境を構築しようとしてきました。しかし、ハードもネットワークも当初より大きく進化しています。最新テクノロジーを利用することで、多くの面の負荷を下げ、よりシンプルに進めることができるのではないかと考えています。

教員の業務負荷が大きい点については、ICTを働き方改革に活かすことを大前提として、導入前後でフォローできる体制作りが、その後の成功を左右するようです。教員を1人にしない仕組みが重要です。仲間づくりが容易にでき、周囲の理解を得ながら全体で進めていくことで、よりスムーズに進めることができるのではないでしょうか。

レノボ・ジャパン デビット・ベネット氏

レノボ・ジャパン
デビット・ベネット氏

ベネット ICT導入後に教員に大きな負担がかかる、という点も課題です。継続的な活用のためには、メンテナンスが必要です。

教員の意識の問題も気になります。ICTに頼らなくても授業はできる、今までの授業方法で充分、ICTは難しい、などICTを活用したスタイルに消極的な教員が多い地区もあります。

でもよく現状を見てほしいのです。すでにAIを活用した社会に入っており、AIやICTなくしての生活はありえません。そしてその変化のスピードもとても速いのです。ところが、学校の多くは100年前と同じ環境です。教員が板書をして、それを子供たちがノートに書き写す。わからないことは辞書で調べて付箋を貼る。とても違和感があります。

多くの子供たちは家では調べもの、ゲーム、動画、メール、SNSなどでICTを多く活用し、使いこなしており、既に生活の一部です。学校と家庭のギャップは大きく子供たちは戸惑っていると思います。

教育クラウドでコストダウン
教育向けに低価格端末を提供

--ICT環境整備を阻む課題を解決するための取組とは

安彦 この6月に公表された「AI戦略2019」では、未来への基盤作りとして「最終的に、生徒1人ひとりがそれぞれ端末を持ち、ICTを十分活用することのできる、ハードウェア・ネットワーク等の環境整備を達成するため、クラウド活用、低価格PCの導入、ネットワーク・5G通信の活用、BYODを視野に入れた目標の設定とロードマップの策定」が盛り込まれました。遠隔教育や学校でのクラウド活用などができるように、世界最高速級の学術通信ネットワーク「SINET」を初等中等教育に開放し、希望するすべての学校で利用できることも盛り込まれています。

2020年度から小学校段階でプログラミング教育を必修化としますが、このためにもICT環境は必須です。高等学校段階ではこれまで、8割の生徒がプログラミングについて学ばずに卒業していましたが、2022年度から必履修科目「情報Ⅰ」でプログラミングについて学びます。AIと人間、それぞれの強みや違いを理解し、人間がAIやロボットを使いこなして問題解決を図るための基礎的なリテラシーを習得する上でもICT環境は不可欠です。早期の整備が急務であることを様々な機会を捉えて周知しています。

国においては、このような新しい学習指導要領の実施を見据え、ICT環境整備に単年度1805億円を地方財政措置として財源を保障しています。これにより、税収が少ない自治体であっても、目標とする水準のICT環境整備が可能となっていますが、現状は、ほとんどの自治体でその水準を達成できていません。

中井 予算確保のためには、首長の理解を得るアプローチは欠かせないと考えています。人材は地域を支える大切な基盤です。日本マイクロソフトでは、全国ICT首長協議会に参加させて頂きながら、事例を示すことで、適切な予算をお願いしています。ICTをうまく活用した教育を継続している子供たちには、明らかな違いがあります。
弊社では教員支援も大事にしており、2015年から、世界中でICT活用を推進する教員を支援するプログラムを行っています。認定教育イノベーターには、コンテンツやデバイスの貸与、研修の機会を提供しています。仲間をつくり刺激を受け、実践を拡げることも重視しています。

教員の働き方改革についてもICT活用、例えば遠隔でもデジタル上で多くの仕事ができるなど、柔軟性のある働き方を取り入れていくことで、教え方が変わり、子供の学びが変わる、と感じています。

ベネット レノボでは、コストの課題を解決するために、必要な機能はありながら低価格を実現したデバイスを提供することができます。「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(中間まとめ)」では、教育用コンピュータは1台5万弱という相場観が出ていました。レノボはグローバルで、教育向けに多数のデバイスを提供しており、低価格モデルが複数あります。これを日本でも提供します。この低価格デバイスと教育クラウドを組み合わせることにより、今までオンプレミスで導入してきたサーバー、ソフトウェア等のコストを削減することもできます。MDM等の様々なソリューションも提供しておりますので、メンテナンスにかかる工数など導入後の教員の手間の軽減が可能になると考えています。

齋藤 弊社では地方創生や社会課題の解決をテーマとしたセミナーを47都道府県で実施しています。さらに教育に特化したセミナーを今年度だけで既に30回以上開催しており、今後も全国各地でICTの重要性を発信していきたいと考えています。

PC教室活用を前提とした考え方でネットワークを設計すると、1人1台になったとき、ネットワーク負荷がかなり大きくなり設計が難しい面があります。

そこで、LTE回線とクラウド活用を組み合わせた提案をしています。ストレスのないICT活用を支える、高品質のLTEネットワークを提供できますので、WiFi整備が難しい状況にある地区や、WiFiをすでに導入している学校であっても、タブレットの利用範囲を押し広げ、利便性を高めることを支援できます。

先進的な導入事例を広げることも重要です。2018年から熊本市、熊本大学、熊本県立大学と連携してICT活用を支援していますが、産官学民が連携して取り組み、役割を分担して機運を高めていければと考えています。学校で、笑顔で主体的に取り組んでいる子供の様子には、とても説得力があります。

端末・回線・保守管理などをワンストップで提供する

--「ICTGoodstart」とは

ベネット いくつかの国の学校を見てきましたが、日本の教員は部活動に多くの時間を割いており、これは世界的にも珍しい状況であると感じています。ネットワークの教育活用やクリエイティブシンキングについての取組も、少し遅れている印象です。一方で、日本においても素晴らしい取組を始めている教室は確実に増えています。この動きの拡大を支援できる提案ができればと考えています。

そこで、NTTドコモが提供するLTE回線と日本マイクロソフトが提供する教育クラウドとコンテンツ、レノボが提供する低価格デバイス・MDMの仕組みを連携した、新しいパッケージプラン「ICTGoodstart」の提供を始めます。コンセプトは、いつでも、どこでも、だれもが、同じ学びを共有できることです。3社の協業により、教育ICTに必要な、通信、デバイス、教材、ソフト、保守サポートのすべてパッケージが可能になりました。これにより文部科学省「柴山・学びの革新プラン」の内容の実現を後押しできればと考えています。

LTE回線を内蔵したデバイスから、シングルサインオンにより1つのIDで、学校、家庭、どこからでもコンテンツにアクセスできます。導入後に何かトラブルがあった場合は、専用のコールセンターで迅速に対応できます。

デバイスに関しては、過失による故障にも、追加費用なしで対応している点が大きな特長です。これによりデバイスを安心して活用することができるはずです。

必要な機能をすべてクラウド環境で提供することにより、大幅なコストダウンが可能になります。

削減したコストでデバイスを追加したり、ICT支援員などのサポートを導入したりすることも可能です。

齋藤 LTEモデルは、すぐに活用を進めたいが無線環境整備がすぐには難しい場合や、モデル校でまず活用だけを進めたい場合、校内では無線LANを活用しているが、学校の行き帰りや自宅ではLTEを活用したい、など様々なニーズに柔軟に対応することができます。整備に何らかの課題を抱えている学校の選択肢を増やす仕組みとして、教育現場を支援していければと考えています。

中井 「ICTGoodstart」では、クラウド環境を利用することにより、どこからでも様々なツールを活用できます。協働学習やプログラミング学習のほか、教員の働き方改革を支援できるプラットフォームとしてもぜひ利用していただきたいと考えています。

安彦 「新時代の学びを支える先端技術活用推進方策(最終まとめ)」では、パブリッククラウド活用による端末のコストダウンや、SINET、LTE、5Gなど様々な選択肢の可能性を示しています。民間企業等には、学校へのハードやサービスの提供モデルの大幅転換についても期待しているところです。

新しい学びを実現するためには、必要なときに手軽にいつでもどこでも、文房具のように学びに使えるなどの機動性が求められています。学校現場が求めている内容にマッチした提案が必要です。低価格デバイスであっても十分に求める教育内容を実現できる、という仕組みはぜひ実現してもらいたいとこころです。

プログラミング教育も、初歩レベルの学びであれば、デバイスにパワーがなくても通信環境が確保されていれば可能、という判断もできます。自治体によりベストな環境は異なりますので、様々な選択肢が増えることは重要です。企業のCSR活動も多いプログラミング教育ですが、無償の場合、継続的な取組が難しい面があります。持続するような取組を企業と連携して行うための工夫も必要であると考えています。山間地にも同じ環境を都市部と同程度の負担で届けるにはどのようなプランがあるのか、諸外国のユニバーサルサービスの例も含め、様々な提案を期待したいところです

ベネット デバイスメーカーとしては、低価格にこだわりすぎて起動が遅い、充電がもたない、堅牢性に不安があるなどがない整備に貢献したいですね。サービスサポートも同梱して、教員負担を減らし、最大限の効果を上げることができるパッケージプランを提供できればと考えています。

左からレノボ・ジャパン代表取締役社長デビット・ベネット氏、日本マイクロソフトパブリックセクター事業本部・文教営業統括本部長・中井陽子氏、文部科学省初等中等教育局視学官・安彦広斉氏、NTTドコモ第一法人営業部長(地域協創・ICT推進室担当)齋藤武氏

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年7月8日号掲載

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