千葉明徳中学校・高等学校(園部茂校長・千葉県)は今年度、全学年に1人1台のiPad整備を完了し、同校の教育理念「行動する哲人」を育て、未来への扉を開く人材育成に取り組んでいる。中でも注力しているのが「使える英語力」「ICT活用力」「プレゼンテーション力」の育成だ。昨年まで高等学校の副校長として同校全体のICT環境整備を進めてきた梅澤俊秀中学校副校長に、同校の整備の特徴と活用、成果を聞いた。
梅澤副校長がICTの可能性に刺激を受けたのは、2010年の教育ITソリューション(EDIX)で電子黒板を見たときだ。「これを使うと授業が劇的に変わる、と感動した」と語る。当時、電子黒板は現在よりも高価だったこともあり、共用スペースに1台を整備。インターネットや写真、動画を活用した授業を担当の社会科で始めたところ「面白い授業をやっている」と評判になって、仲間ができ、次の年にも1台追加。現在は全教室にプロジェクターを設置済だ。今年度は体育館にも、移動式プロジェクター型電子黒板を2台導入してダンスや競技の作戦などに活用する。
1人1台のiPad活用の事例を見たときはさらに感動した。同校の生徒にも同様の環境を、と考え、校長と供に先進校を見学。2015年から5年計画で、学内整備を進めた。
計画の立案は重要だ。同校は中学校、高等学校、短期大学、幼稚園から成るため、理事会の承認なしでは予算を確保できない。先進校の見学やEDIX、NewEducationExpoなどの展示会などで情報を収集して検討。どのベンダーと付き合うのかも重要であると考えた。5年計画となると、その間重要な相談相手となるからだ。理事会ではICT活用でどのような学びが期待できるのかも説明。文部科学省の私立学校施設整備費補助金も利用するなどで、承認を得ることができた。
当時、ICT先進校ではiPadの利用が多く、同校でも、まず教員にiPad100台を整備。生徒には2017年から3年計画で、中学校1年生と高校1年生から整備を開始。今年度中に計1400台の活用が始まる。
iPadは保護者負担で、生徒個人の所有物だ。学校がキッティングをして渡す。持ち帰って自宅で充電し、家庭で自由に活用している。導入当初、無線LANが家庭にない生徒も数人いたが、今年の新入生はゼロ。WiFi環境が家庭に浸透しているようだ。
無線LAN整備は、iPad整備をした学年の教室などから5年計画で整備。現在、中学校及び高等学校の全普通教室と全特別教室、職員室合わせて計77台のAPを整備済だ。高校生から「ダンスの練習をする際に体育館でもWiFiを使いたい」という声もあり、今年度中に体育館に3~4台程度を追加予定で、計約80台になる。
無線APは「ACARA1010」(フルノシステムズ)を導入した。船舶レーダーや魚群探知機などの船舶用電子機器、物流専用のハンディターミナルなどの業務用無線製品の実績から、業務用無線LANとして信頼できると考えた。
コントローラ不要で管理できる無線ネットワーク管理システム「UNIFAS」も整備。1000台まで追加料金なしで管理できるので、5年計画で順次整備していく方式に適合した。
iPadを使ってまず始めたのが授業支援アプリ「ロイロノート」による双方向授業だ。授業資料の提供や課題の提出、質問などができ、生徒はプレゼンやまとめに活用。クラウド型グループウェア「G Suite」では、ロイロ以外の教材を共有。板書の量が半分以下になるなど、授業スタイルも変わった。
次年度からは黒板をすべてホワイトボードにすることも検討中だ。ホワイトボードは黒板のように書き込むことができず、ポイントのみを示すことになる。「チョーク&トーク」という昭和の授業からの脱却を目指す。
さらに昨年度から、個別学習の充実が始まっている。オンラインデジタル教材「すらら」(中学校)のほか、昨年度検証したAI型数学教材「Qubena(キュビナ)」は今年度から全1年生と2年生の選択授業で導入を開始。4技能の習得を目指してスタディサプリEnglishも導入。円滑に動くネットワークと教材の充実により、基礎的な学びの多くを個別で進めるようになった。空いた時間は、今後の社会で必要とされる力の育成に活用する。「様々な新しいツール、仕組みを上手く授業に活用することが求められている。現場の教員にとっては大変であるが、大変面白い時代」と語る。
この3年間で感じているのは、教員の進歩以上に生徒が成長していることだ。Google Formによるアンケートは文化祭ですぐに活用。生徒総会はタブレットに一斉配信して各教室で行うなど活用が広がった。
生徒活用躍進のポイントは「自由な活用」だ。導入当初、教員からは「生徒がYouTubeを見て困る」、保護者からは「動画視聴やゲームばかりするのでフィルタリングを強化してほしい」と言われた。教員には、YouTubeよりも面白い授業を目指すように説得。今では授業にYouTubeを活用する教員も多い。保護者には、一定のフィルタリングをしていること、さらに強化すると、ネットワークが遮断しやすくなり、想定した活用が難しくなることを説明。トラブル対応など管理も煩雑になる。
大人も隙間時間には動画視聴もゲームもする。どんな動画を見るのかが重要であり、禁止するだけでは解決できないと考えている。フィルタリングにかける予算を新しい教材の活用に予算を使いたいという本音もある。「生徒は、わからないことは周囲にすぐに聞いて自分のものにする。それが最大の違いでは」と考えている。
生徒活用が進むと、ネットワークが遅くなる、という問題も起こった。WiFiの強度を高めても解決せず、ベンダーのSEと相談して、負荷の高いアプリをフィルタリングから1つひとつ外していった。現在、G Site for Educationやロイロノート等を外しているが、問題なく動いている。
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無線LANアクセスポイントを提供しているフルノシステムズは、EDIXで各校・自治体の導入事例を報告。導入相談などにも応じる。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年6月10日号掲載