鳥取県では2018年4月、県下全19自治体の全179小中学校(義務教育学校3校含む)で一斉に統合型校務支援システムの活用を開始した。県内すべての市町村立小中学校・県立学校でインターネット分離をしてセキュリティも確保。帳票も全県統一での電子化運用を実現した「鳥取県モデル」は全国初の事例で、他自治体からの視察も多い。どのように合意形成を図り、システムを構築したのか、鳥取県総務部情報政策課(市町村連携・セキュリティ対策担当)下田耕作課長補佐と河﨑秀幸課長補佐に聞いた。統合型校務支援システムは「EDUCOMマネージャーC4th」を導入している。
自治体における各種業務のシステム化、ICT化は急務だが、コストの問題やICT整備に精通した人材の不足、専門的な知識が必要である等の理由で、システム整備の検討が進まない場合も多い。そこで鳥取県では、2015年7月に全市町村が参画する「鳥取県自治体ICT共同化推進協議会」(以下、協議会)を立ち上げ、自治体の枠を超えたシステム共同化の推進に着手。まずはどのようなシステムの共同化を目指すべきか検討し、その1つとして満場一致で決定したのが「公立小中学校における統合型校務支援システムの共同化」だ。統合型校務支援システムの共同化を進めるため、協議会の下に「学校業務支援システム部会」(以下、部会)を立ち上げ、有効性の検討から始めた。
当時、県下で校務支援システムの導入や導入を検討している市町村はあったものの、ほとんどの団体が導入未検討であったことから、統合型校務支援システムの勉強会からスタート。2016年8月には、学校現場の教職員を対象とした体験型の勉強会を3地区(東部、中部、西部)で実施。学校現場でのシステムの有効性の理解を深めた。
共同化によるコスト削減効果を明確にするため、仮に各自治体が個別に導入した場合のコストと、県内全19市町村179小中学校一斉導入した場合のコストの双方の見積もりを複数社に依頼。各社の見積額を平均して比較した結果、コスト面において、統合型校務支援システムの共同化は大きなメリットが見込めると部会で共通認識され、その後、共同調達・共同運用に向けた検討が加速していった。
部会では、「何を実現させるためにシステム導入するのか。将来を担う子供たちのため、目指すべき姿とは何か」を協議してシステム導入で目指す効果を7つのポイントに整理。特に、「子供の学力や日常的な行動、心身の健康状態など多様な情報を、担任や管理職、事務職、養護教諭すべての学校職員で共有できること、児童生徒が県内のどこに転出入しても、教職員がどこに異動しても、システム内でシームレスに情報連携し、県内のすべての学校で指導が充実すること」を最重要目的と位置付けた。
下田氏は「何を実現させるためにシステムを導入するのか、将来を見据えた目指すべき姿とは何かを明確にし、部会の決定事項として全団体で共通認識を図れたことが、共同調達への合意形成から、システム構築段階に至るすべての段階で大きく貢献した」と振り返る。具体の検討が進むにつれ、各自治体の立場から異なる意見も出てくるものだが、困難な調整をまとめる際にも、本来の目指すべき姿は何かに立ち戻り、部会において協議を重ね合意形成を図ることができたという。
「校務支援システムを活用することで事務作業が減る、コスト減につながるなどの一般的なメリットは明らかだが、それだけでは全市町村参加による共同調達・共同運用(一斉導入)や各種帳票の県下統一化は実現しなかっただろう」と語る。
鳥取県では、「費用負担をどのように分担するか」についても部会で検討し、全市町村の合意によって決定した。
正しい判断のためには様々な情報も必要だ。そこで県では、複数の事業者へのヒアリングや全国の先行事例など情報を幅広く収集。その情報をもとに「教職員数」「児童生徒数」「学校数」など様々な基準での費用負担割合を試算して市町村に提示するなどの方針決定に向けた支援を行った。結果、学校数の割合で費用負担を分担することに決定した。
共同化において、帳票の統一化は大きなハードルの1つだ。「保健帳票も含めた帳票様式を全県一斉で統一するのは他県にも前例がない」、「理想ではあるが絶対不可能だ」と各方面から言われながらも、ほぼすべての学校の帳票や通知表などを集めて比較しながら、部会において実現に向け協議を重ね、県下統一化を実現させた。
帳票の統一化が難しいとされる主な要因は「様式の背景にある学校独自の文化の違い」にある。ここでも「本来の目的」に立ち戻ることで、県下統一化の実現に繋がった。「このプロジェクト推進において、市町村のコアメンバーで構成するタスクフォース活躍の功績は大きい」と振り返る。
医師会や歯科医師会などの保健帳票関係者に対して事業の目的を丁寧に説明して理解を図り、信頼関係を積み重ねながら、変革に向けた足場固めを進めた。同時に、書式や体裁にこだわらず項目や要素を満たしていれば良しとすることで、パッケージの様式を活かしてカスタマイズを最小限に留めた。
通知表も各校バラバラであったものを何種類かのパターンに整理し、その中から選択できる方式にした。
システムの「改ざん防止」「原本性の担保」の仕組みによって、公簿の電子化運用も実現。出席簿、指導要録、学校日誌、保健日誌等、システム内の電磁的データを原本とし、システムから出力したものは「原本の写し」であると全県でルールを統一した。また都道府県単位の事例としては全国で初めて、県内で自治体を跨ぐ転出入や進学の際にシステム内で必要なデータが引き継がれる県下統一化も「目指す姿」を実現させるための取組みの一つである。
鳥取県は、2017年4月に自治体情報セキュリティクラウドの運用を開始した際、県内すべての市町村立小中学校・県立学校にまで守備範囲を拡大、さらに同年10月には仮想環境を導入し、校務環境とインターネット環境を論理的に分離。2018年の「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」に沿った仕組みを2017年度には既に構築。市町村立小中学校・県立学校で、首長部局と同等レベルの情報セキュリティ対策を実現した全国初の事例といわれている。
統合型校務支援システムの調達公告は2017年8月。同年11月に事業者(ケイズ・EDUCOM共同企業体)と契約。
試験運用の開始は2018年3月、本運用開始は4月と、調達から運用開始まで全国に例のないスピード感で進行した。県下全市町村が一体となり、部会やタスクフォースを通じ、円滑に協議を進めたこと、県医師会、県歯科医師会などの関係団体の理解と協力が主な理由だ。
運用開始から約1年を経て、活用が進むにつれて効果の実感が高まっている。
特にグループウェアについては反響が早かった。「掲示板機能で校内の事務連絡がスムーズになった」「職員会議や打合せもペーパーレスで効率的になった」「予定表機能でスケジュールも共有しやすくなった」「教育委員会からの調査等もメールではなくグループウェア内で可能になった」等、続々と喜びの声が届いているという。
導入初年度は新しいシステムを覚える負担もある。そこで今後3年間は協議会において定量・定性の両面で効果測定を行い、評価とともに効果的な活用を促進していく考えだ。
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「EDUCOMマネージャーC4th」を提供しているEDUCOMは、EDIXブースで統合型校務支援システムの導入事例や効果を報告。導入の相談にも応じる。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年6月10日号掲載