2020年度全日本教育工学研究協議会全国大会(以下、JAET大会)が鹿児島市で開催される。市では全小中学校の全普通教室に、提示環境として大型提示装置とワイヤレスディスプレイアダプター、無線アクセスポイント(AP)、実物投影機、授業用タブレットPCを1セットにして設置しており、児童用可動式タブレットPCは、PC室とは別に3クラス分を配備している。2020JAET大会会場校の1つである鹿児島市立武小学校(六笠登由校長)を取材した。
武小学校は2020JAET大会の授業公開校として今年度からICT環境を活かした授業改善に取り組み始めている。同校には児童用タブレットPCが60台あり、2階、3階、4階に各20台を保管庫で管理。活用歴は1年余りだ。
2年3組の授業では算数「1000までの数」に取り組んでいた。デジタル教科書を提示して、どのように数えればよいかをみんなで考える。「先生のやり方をみんなに見てもらってもいいかな?」と内山教諭がタブレットPCで数え始めると、その画面は、ワイヤレスディスプレイアダプター「ScreenBeam750A日本版」(Actiontec)により、大型提示装置にすぐに提示。教員が10個ずつ数える様子がリアルタイムで提示されると、「あってるよ!」「今のところ違うよ!」と教室は盛り上がる。その後、間違えずに数える方法を全員で考え、ペンの色を変えて10のまとまりを100にまとめる様子を教室全体で共有した。
ScreenBeamは無線技術の1つであるミラキャストに対応したワイヤレスディスプレイアダプターだ。WiFi環境がなくても遅延なく教室のどこからでもタブレットPCの内容を提示できる。
武小学校は文部科学大臣優秀教職員(教職員組織)表彰を受けている。また、六笠校長は2018年度視聴覚教育・情報教育功労者文部科学大臣表彰を受けており、30年前にパソコンクラブでベーシックを使いプログラミング教育に取り組んでいたという。「教員用タブレットPCを使って大型提示装置に提示する一斉授業型のICT活用は浸透している。今後は、児童活用を推進したい。ScreenBeamを使うと、児童用タブレットからも写真、画像をすぐに提示できるので、クイズ大会やテーマを決めた発表会などから始め、児童が安心して活用できる下地つくりに取り組みたい」と語る。
鹿児島県は全県で異動するため、年度当初、教員スキルのばらつきが生じやすい。その反面、鹿児島市のICT環境の有効性を感じた教員が異動先の市町村の環境整備を推進するきっかけにもなっており、近隣自治体の日置市、南九州市、指宿市などが鹿児島市と同様に、ScreenBeamを整備。県全体にミラキャストによる提示環境が広がりつつある。
大学院開設から本年で3年目の同学では、当初から、1人1台のiPadProを院生に配備。この4月より、ScreenBeamの新製品960Aの活用を始めた。これによりWindowsもiPadもAndroidもすべてプロジェクターやディスプレイなどに提示できるようになった(※)。
院生は、校内研修の参加や授業参観が多く、院ではiPadや自分のスマートフォンで撮影した授業の様子や板書の内容、ワークシートや指導案などの映像や画像を使って報告し合っている。これまでは、提示したい端末がiPadの場合はAppleTV、Windowsの場合はケーブル接続やミラキャスト機能などと使い分ける必要があったが「ScreenBeam960A」はマルチOS対応で提示機器にミラーリングできるので、使い分けが不要になった。
大学院2年の中村さんは「写真を撮影するときは個人のスマートフォンで、調べものをするときは院が配備したiPadProを使っているので、両方とも使える環境は便利」と話す。※WiFi Miracastスタンダードに対応しているAndroid製品(バージョン4・2以降)で利用可能。現在ミラキャスト機能が活用できるかどうかの表示を各携帯端末事業者に求めている。
ツールの進化により、これまで効率的とされてきたICT活用の在り方を見直すタイミングが始まっている。デジタル教科書とノートPCの活用が浸透している学校ほど、教員用タブレットをノートPCのように活用してしまうようだ。ケーブル接続なしでつながると、タブレットPCを手に持ちながら教室のどこからでも操作でき、画面操作で容易に拡大して提示できる。教員がタブレットを手に持って使い始めたとたん、子供たちの発話が増え、発見したことや考えたことを口に出しながら考えることに集中する様子が見られるようになる。
子供たちの、これまでとは異なる反応1つひとつが、授業改善のきっかけになる。教員用タブレットは、ノートPC感覚ではなくスマホ感覚で活用することから始めてみてはどうか。子供の活用も見えてくる。鹿児島市はそれができる環境にある。2020JAET大会では、日常の授業で継続的に活用する方法に加えて、新たな学びのスタイルに対応したICT活用を試す良い機会としたい。AndroidにもiPadにもWindowsにも対応できるScreenBeam960Aは、既にBYOD環境が浸透している大学や大学院で有効。今後、小中学校でも広がることが予想される。
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ActiontecはEDIXブースでワイヤレスディスプレイアダプターScreenBeamの新製品・マルチOS対応の960Aを展示。インターネット接続や4K対応・50台の端末が利用でき、協働学習用アプリにも対応する最新製品1100も参考出展。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年6月10日号掲載