児童生徒の実態に応じたICTの活用により、学習上の困難の克服や指導効果を高めることが期待されている。つくば市立みどりの学園義務教育学校(毛利靖校長・茨城県)かつら学級(情緒)では、「指導者用デジタル教科書 新編 新しい国語」(東京書籍)(以下、デジタル教科書)を活用することで、児童の認知処理の偏りを補ったり、得意な処理をより伸ばしたりする活用で工夫している。3月14日、かつら学級の授業を取材した。授業者は櫻庭はるみ教諭。
かつら学級は1年生のみの単独学級だ。1年下巻国語「いろいろなふね」のふり返りとして、まず音読からスタート。デジタル教科書の読み上げ機能と一緒に、全員で声を合わせて読んでいく。読み上げと同時に今読んでいる部分の文字色が変わるので、電子黒板を見ながら読む児童が多い。読み上げの速さは電子黒板上で変えることができる。
櫻庭教諭は、デジタル教科書の「特別支援教育用データ」を印刷し、ワークシートとして配布。本文は総ルビ・分ち書き・文節改行になっており、児童が自由に書き込むことが可能だ。
児童はその本文に、「船の名前」に赤い線、「役目」に青い線、「つくり」に波線、「できること」に二重線を引いていった。
答え合わせは電子黒板上で行う。線の色の変更を自分で行う児童もいる。皆、集中して電子黒板を見つめている。
次に、デジタル教科書の付属資料を使って、船の名前と特徴を表で整理。これも電子黒板上で児童が答え合わせを行う。電子黒板で行う作業には、積極的に手が挙がる。
整理し終えた表を前に、「みんなはどの船が好き?」と櫻庭教諭が聞くと、ある児童は「車も乗れるから、フェリーボードが好き」と答える。客船が好き、という児童も2人いた。
「客船の好きな子が多いのでみんなで動画を見てみましょう」と、デジタル教科書の資料から、客船についての動画を提示。「レストランみたい」「かっこいい」などと感想を言い合いながら視聴していった。
漢字の復習でもデジタル教科書を活用。
皆、元気よく書き順アニメーションと一緒に空書きしていく。「右」と「左」の書き順に注意しながら再度練習していった。
櫻庭教諭はデジタル教科書について「使うと良さがわかる。児童は電子黒板上で作業することが大好き」と話す。
「特別支援の場合、指示が通りにくい面がある。情緒クラスなので飽きさせないようにすることを心がけている。デジタル教科書は、映像を見せたり、一緒に読んだり、電子黒板上に線を書き込んだり、さし絵の順番を変更するなどの作業をしたり、様々な工夫を凝らしやすく、毎時間活用している」
一斉朗読でも個別朗読でも、デジタル教科書の読み上げ機能と一緒に読ませるようにしている。個別朗読の際には、早く読みたい子、ゆっくり読みたい子の希望を聞き、読み上げ音声の速さを調整しているという。
特別支援教育用データを活用できるので、教材作りに役立てている。総ルビや分かち書き、文節改行など、1人ひとりの児童に合わせた本文を印刷して音読練習やラインの書き込みなどに利用している。
EPUB3データはすべての指導者用デジタル教科書に同梱されており、文字拡大や書体・行間の変更、文字色・背景色の変更にも対応。
様々な児童の困りを支援できる。
本校では、どの教員もICTを使った授業改善に熱心で、デジタル教科書も全教科で活用している。特別支援教育でもデジタル教科書と電子黒板の教育効果は高く、児童の熱心さや集中力の継続につながっている。「デジタル教科書」には特別支援向けのデータが充実しており、教員は工夫しがいがあるようだ。
昨年度は1年生全体で国語と連携したプログラミング教育を行った。特別支援のクラスでも同様に取り組んだが、子供たちの作品は素晴らしく、デジタルが引き出す可能性の高さを感じた。
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東京書籍はEDIXブースで、小・中・高等学校のデジタル教科書や教育用アプリを各種紹介。2020年度対応の新しいデジタル教科書、教育用アプリに加えて次世代型校務支援システム「iFuture」も紹介する。
ブース内セミナーでは、19日に稲垣忠教授(東北学院大学)、20日に東原義訓教授(信州大学)、21日に堀田龍也教授(東北大学大学院)が新学習指導要領とデジタル教科書や遠隔授業などをテーマに講演する。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年6月10日号掲載