2014年11月に新校舎が完成した目黒日本大学中学校・高等学校では、地下2Fから地上4Fのすべての教室で、生徒も教員も無線LANに接続してインターネットを活用できる。各教室では、iPadを使って生徒が調べたり、課題を提出したり、教員が自作教材やデジタル教科書を提示した授業を展開している。同校の整備計画と特徴、活用推進について、同校総務課課長補佐の伊藤裕氏に聞いた。
生徒は毎朝、iPadに配信される連絡事項を確認。朝8時半には、英語・数学・国語のいずれかの小テストがiPadに送信され、生徒は小テストに取り組む。クラブ活動や生徒会活動でも活用しており、iPadとネットワークは同校の教育活動に「必要不可欠」なものになっている。
本整備のきっかけは、校舎の改築だ。
iPadを自由に活用できる環境を構築しようと、他校の視察から始め、4年計画で始めた。
最初に導入したのは2015年の教職員用タブレットだ。翌々年から、中学校1年、高等学校1年にタブレットを段階的に導入。家庭や通学途中での活用を想定したLTE端末だ。今年度、通信制の生徒も含め全学年が活用できるようになり、教職員用タブレットを含めると約1600台にものぼる。
LTE端末を採用したが、校内無線LAN環境も強化した。同校は近隣に1000人規模のオフィスビルが複数あり、駅も近く人通りも多い。半地下の教室もあり、すべての授業でLTEを安定して活用するのは難しいという地域特性がある。同じネットワーク上で安定した通信環境が必要であると考えた。
2011年、旧校舎でノートPC40台を利用した際にバッファローの法人モデルを採用し、2年間円滑に活用できたことから、本整備においても同社の法人モデルAPを整備。40台の端末を同時に動かす検証も実施し、無線AP「WAPM―1266R」などの導入を決めた。1教室1APを基本として小ホールや多目的ホールにも整備。現在、計92台の無線APは、新機種と旧機種が混在するなか、スムーズにつながっている。
約70名の教職員が所属する職員室には、授業用無線AP2台、校務用無線AP3台を設置。授業用APを使って各教室の電子黒板(ネットワーク対応プロジェクター)に、職員室から連絡事項を一斉配信することができる。一部の教室を選択することも可能だ。「WAPM―1266R」には有線LAN端子が2つあるため、各教室の電子黒板にLANケーブル敷設工事なしで接続できる。
92台の無線APは、ネットワーク管理ソフト「WLS―ADT」で一括管理している。日頃の活用状況もサーバ上で集計でき、バージョンアップも一括でできる。
全6Fの各教室に行かなくても管理できるため、一括管理できる仕組みは必須だ。
初めて全教室で接続した際、クラスにより接続状況にばらつきがあったため、管理ソフトで状況を把握。1台のAPに対して約50台のiPadが接続している場合や数台の場合などがあり、その場で調整して解決することができた。管理ソフトがあることで、今後、APが増えても対応できると考えている。
当初はトラブルも起こったが、「活用するからこそトラブルが起こる。トラブルは最初だけで、今はあらゆる教育活動で活用しており、なくてはならないインフラになっている」と話す。
当初、日々の連絡事項をiPadで行うことから始め、できることを増やしていったところ、キーになる複数の教員が連携することで様々な活用が広がった。年に数回実施する教科研修会では、デジタル活用も必ずテーマになり、保護者連絡をやってみよう、悩み相談の履歴を管理しようなどと様々なアイデアを共有。現在はClassiの活用が多い。
高等学校の特進クラスで行っているオンライン英会話では、フィリピンの現地講師と1人1台のiPadで30分間、会話している。クラス全員の生徒がiPadで海外とつながり会話をしている様子を見ると、ネットワーク整備に力を入れてよかったと改めて感じるという。「この時間が楽しみ」と話す生徒の笑顔やオンライン英会話を3年継続している生徒の会話力の高さに感動する。
オンライン英会話は今夏より、中学校1年生でも週2回、展開する予定で準備を進めている。
今夏には体育館に、現在のAPの上位機種である無線AP「WAPM―2133TR」4台を整備する。全校生徒がiPadを持ち込み、全校規模の集会などで1000台以上を同時接続しても活用できる環境にしたい考えだ。保護者会や学校説明会でも、QRコードから同校Webに接続したり、Webアンケートを実施したりなどを想定している。
八千代市教育委員会(小学校22校・中学校11校)では2018年度、ネットワーク環境を再構築した。ネットワークは100Mbps、全普通教室及び一部特別教室の提示環境の整備、児童生徒用タブレットは各校につき、PC室用を含めて可動式タブレットPCを4クラスにつき1クラス分配備。管理機能搭載の無線APは各教室や体育館、職員室などに計984台を導入するなど「2018年度東日本で最大規模」ともいわれる整備の経緯について、八千代市教育センターの黒飛雅樹主任指導主事に聞いた。
八千代市教育ネットワークの整備の特徴は、「実現したい教育環境」のサービス調達で進めた点だ。当時の文部科学省の最新資料を読み解き、「実現すべき教育活動と、それを円滑に使えるICT環境」をまとめ、月額利用料を支払う形で調達。学校・教育委員会が「使う」、事業者が「整備」を担うスタイルで構築した。
準備として、文部科学省「ICT活用教育アドバイザー派遣事業」にも応募。毛利靖氏(つくば市総合教育研究所所長・当時)からアドバイスを得た。
首長部局にとって、予算確保の際に重視されるものが「法律」や「条例」だ。学習指導要領は「法律」ではない、従って絶対にやらなければならないものではない、と応じられる場合もある。そこで「第2期教育振興基本計画」(平成25年6月閣議決定)等を示すとともに、八千代市第4次総合計画後期基本計画に位置付けることで、首長部局や情報管理課の協力を得た。
首長部局からのアドバイスの1つに、入札による「所有物」契約の禁止があった。「必要なものは機器ではなく、新しい業務スタイル。そのサービスを調達すべきである」というものだ。
八千代市ではスクール・ニューディール事業の補助金を最大限活用してセンターサーバやVPNなどを構築しており、教育ネットワークは専用線で、当時の最速であった。これらの環境の一部の保守期間が近々に迫っており、「壊れたら使えない」「データ消失の可能性がある」状況であることから、今回のアドバイスにつながった。
市の所有物としての入札・調達は最も低コストに入手できる可能性があるが、反面、修理費等が想定できない。一度導入すると変更が難しい校務支援システムなどは、更新時に随意契約となり、コストが予想以上にかかる可能性もある。
そこで、最低限必要な「実現したい教育内容」を6年契約のサービス調達内容としてまとめた。説明資料は、事業者が理解しやすいように実現したい教育内容を具体的に示して、そのためにどのような環境整備が必要なのかを事業者自身が検討しやすくした。
サービス調達として事業者が決定。授業中にWindowsアップデートが突然起こらないように、業務用PCで導入されることが多い「LTSB」でコントロールする、ライセンス管理ソフトを導入してコストを下げる、ICT支援員は6年間で訪問回数の上限を決めるなど、工夫が盛り込まれた提案内容であった。6年間使い続けて問題なく動くタブレットは難しいことを前提とし、安定して稼働することを想定した提案もあった。
これにより、全教室の電子黒板や、予備機を含めて約5000台のタブレットPC、校務用PCなどを整備。タブレットPCは、中学校のICTルームに11・6型を、小中学校の普通教室及び小学校のICTルームには10・1型を導入。特別教室には大型ディスプレイ、普通教室にはプロジェクターと実物投影機も常設した。
デジタル教科書についても、新学習指導要領開始のタイミングで、指導者用の導入を予定している。
大容量のデータがダウンロードでき、同時アクセスできる無線環境として事業者が選定したのが、学校向け・管理機能搭載無線AP「WAPM―1266R」(バッファロー)だ。ネットワーク集中管理ソフトウェア「WLS―ADT」や保守サポートライセンスパック「WLS―ADT―SP1Y/300」なども導入。
無線AP「WAPM―1266R」は、DFS障害回避機能や「干渉波自動回避機能」も搭載。これは気象・航空レーダー波を検知しても途切れずに接続できる機能で、「WLS―ADT」と組み合わせることで、電波状態の確認や、導入後にトラブルが発生した場合の原因解析に役立つ。
八千代市管内には自衛隊が近い学校もあり、成田空港の航路でもある。ドローンの利用や、DFS障害の影響を受けやすい5Ghz帯の活用も今後、増えることが予想されるなど、電波環境が日々変化するなか、「数年にわたり安定した環境」を想定して仕様書に盛り込むことは難しいが、リース契約によるサービス調達であれば、柔軟な対応も期待できる。
実際に活用が始まると、帯域を微調整する程度で、安定して稼働している。
安定した無線環境は、様々な活用を促す。部活動や全校集会でもタブレットPCが活用でき、運動会などの中継も可能だ。新規で導入したWeb会議システムの活用も進んでいる。
設置工事は2018年の夏休みに実施。土日を含まずに全33校の既存機器の撤去及び設置工事を終了し、活用は2学期から開始した。
夏休み中に研修も実施。研修は、学年ごとにチームを組んで、2学期からの活用を想定した授業構成を考えることで、早期からのスムーズな活用につなげた。
これまでのPC室はICTルームとして、可動式の勾玉型デスクを設置。多様な学習形態を可能にした。各校には可動式デスクの設置方法も含めて取り扱い説明書としてまとめ、提供している。
これまで授業で行っていた、電子黒板や実物投影機を使った一斉授業、インターネットを使った調べ学習は、ICT機器等の数の不足で諦めていた場合もある。それが、「常設された新しい機器とネットワーク」により、自由に活用できるようになった。
教員用ネットワークについては、デスクトップを仮想化(VDI)して安全を図っている。「校務系」「校務外部接続系」「学習系」それぞれのデスクトップの背景を色分けすることで、教員が今どの環境にいるのかがわかるようにした。現在、情報資産の4分類やセキュリティ監査の方法について検討中である。
目黒日本大学中学校・高等学校は21日に、八千代市教育委員会は20日にEDIXバッファローブースで事例を報告する。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年6月10日号掲載