3月1日、総務省「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」、文部科学省「次世代学校支援モデル構築事業」成果報告会が文部科学省で開催された。これは校務系データと学習系データの連携と安全な活用を5地域で実証するもので、平成31年度末までにモデル事例を確立する。本実証では、学校に蓄積される様々なデータを校務系データと連携することで、児童生徒や学級の様子を可視化し、個に応じた迅速な対応や学校経営及び教育政策の充実に活かすことが目的。さらに個人情報活用の際の条例等改正も視野に入れたポリシーの在り方なども検討。3年計画の2年目が終了したところで、各地から具体的な取組が報告された。
新地町のシステムの特徴は統合型校務支援システムと学習系システムをいずれもパブリッククラウドを利用して連携している点だ。
教育クラウドプラットフォーム「まなびポケット」の活用率が高いことから、ここでデータを可視化することとして、校務系情報をリモートデスクトップで可視化している。
二要素認証(静脈認証を採用)でログインし、すべての経路を暗号化・無害化するなどパブリッククラウドを最大限活用し、セキュリティを確保している。
この仕組みにより、担任は、出席簿では確認できない保健室来室状況などを確認でき、通常は校務系のシステムにアクセスしにくいスクールカウンセラーや養護教諭なども、校務系の必要な情報を見ることができるようになり、専門的知見を共有できた。
学校満足度が低い児童に注目し、出欠状況や学習成績、協働学習のつながり状況、保健室への来室状況、学習成績を確認して対応を検討。協働学習における児童同士のコメント状況からコメントのやりとりがあった児童とグルーピングをしたり、意識して声かけをしたりするなどで満足度が向上した。
授業学習系システムでは、算数に課題がありながらも国語や理科の学習に時間を費やしていることや21時以降に学習していることもわかり、教育相談資料として活用している。これらの仕組みにより、教員間の指導力の差が少なくなることが期待できる。今後の研究の重要性の認識が教員間で強まるなどの効果もあった。
新地町では平成30年11月13日、ICT活用成果発表会を行う。
LTEタブレットを導入することで、生徒や教員が、家庭でも学校でも活用できる環境を構築。フィルタリングを緩和して調べ学習をしやすい環境としている。
校務系と学習系を分離し、両ネットワーク間を一時的に中継する中間サーバでデータをやり取りする。
生活習慣などの個人アンケートを基に課題別ダッシュボードで個人カルテを作成。
過去と比較して急激に生活リズムが乱れた児童に着目して個別対応に取り組んだり、急に不登校になった児童生徒のデータから兆候を分析するなどしている。
学力と学習量データの比較も実施。
数学ドリルに多く取り組んだにもかかわらず成績が振るわない生徒に着目したところ、2年生から成績が下降しており、取り組む問題数は多いが正答率が高くないことなどがわかった。
そこで学習内容の理解を促すため動画の活用を進めるなど2年次の既習事項の強化を図ることができた。
平成28年12月、「渋谷区立学校幼稚園情報セキュリティ対策基準」を策定。本実証に伴い、26校全校の保護者から了承得るとともに実証校対象に追加の説明と承諾書をやりとりしている。
事業の目的を「有益なデータ・エビデンスの見える化」を実現し、管理職・教員の学校運営・学級経営に資することとし、実証事業の計画策定にあたり学校に47回のヒアリングを行い、校長・教員から「データ活用に対する期待や要望」を集約した。この111個の要望を「学力・体力の向上」「安全安心な学校」など3つのテーマと「学習理解度の可視化」「生活状況の把握」など12個のニーズに分類した。
連携・分析に活用するデータは平成26年度から日々積み上げられている「校務系データ」と新たに取得する「学習系データ」の8つのデータ。これらを連携してダッシュボードとして個別に児童生徒情報を学校に提供することとした。
連携データは提供するだけでなく、データを教育活動で活用する中で学校運営や学級経営、児童生徒指導や学習指導で、どのようなデータ活用が教育効果があるのかを仮説・検証することとした。
「児童生徒ボード画面」は校務系及び学習系情報を集約・可視化し、個別指導や学校全体での情報共有に活用。校務系データは既存の基本データと日常的に入力する出席情報や保健室利用を活用。共通配慮事項は全教員が確認、基本情報ではアレルギー情報をトップにし赤字表記、日々更新されるデータには新着データとして「NEW」を表示。これら画面のインターフェースは養護教諭を始めとする学校要望を実現させた。
学習系データの「心の天気」はタブレットから日々の心の様子(晴れ、曇り、雨、カミナリ)を児童生徒が入力。時々・日々・週単位・月単位で校長・教員が閲覧することができる。教員が気付きを得られるツールとして提供している。
1月に実施した5校の実証校交流会では、校務系の出席情報・保健室利用と学習系の心の天気とのデータ連携だからこそできた指導例など実践事例を交流。エピソードが蓄積された。
実証校の1つである旭陽中学校では、それまで取り組んでいた「一行日記」を「心の天気」としてデジタル化して生活面の状況を把握。生活面による指導の充実と問題の早期発見がより円滑になった。他の実証校でも、ドリル結果のデジタル活用で個に応じた指導や保護者面談、授業改善に役立てている。
今後は標準化モデルの作り上げにも貢献していきたい考えだ。
「学び残しの確実な防止」「問題点や課題をピンポイントで特定する」「教員集団の学び合いの促進と深化」を目的として、校務系と学習系のデータをIDで統合したデータを統合DBに蓄積して5種類のパネルデータとして可視化。教職員や管理職、児童生徒がそれぞれ活用できる仕組みとした。そのうちの1つ「教員集団の学び合い」では、児童生徒にタブレットを使った3問のアンケート(目当て、振り返り、授業で学んだことなど)を実施。その結果をリアルタイムで確認できるようにして授業や指導を見直すきっかけとした。
多様な子供の実態も把握。児童生徒対象のアンケートで学校関連と家庭関連の結果を紐づけて、授業に否定的な児童に着目。教職員で共有して対応することで、児童に明らかな変化がみられるとともに、教員間でその有用性を共有できた。今後はデータ活用を学校文化としていきたい。
校務系、学習系サーバは分離して中間サーバでデータを連携し、アクセス制御、デスクトップ仮想化、二要素認証(顔認証含む)でセキュリティを確保。中間サーバは校務系の中で切り分けている。
可視化するデータは以下の4つとした。▼児童生徒カルテ▼クラスカルテ▼学年カルテ▼自治体カルテ
各カルテはクラウド上で閲覧。クラスカルテは、学習意識調査などのデータを活用して各クラスにどのような考え方の傾向の児童生徒がいるのかを可視化したもの。
例えば「自分の意見を言うときはなぜそう考えるのかについて考えている」などの項目が高い場合、低い場合などそれぞれに着目して授業改善につなげ、その授業改善の結果どんな変化が見られたのかについても校務系で確認。「エビデンスに基づく学校経営」を目指す。
これらの仕組みを有効に活用するため、全教員が校内研修。データ活用による指導改善が定着しつつある。
各カルテで利用する個人情報は「目的外利用」に当たると考え西条市情報公開個人情報保護審査会で答申。個人情報保護に関する覚書を市と事業者で締結した。
本年11月6日に成果報告会を行う予定。
4自治体の実証により、できない子だけではなく、どの子供にも効くデータ連携活用の方法が明らかになった。さらに、データを活用した指導を教員が意識することの重要性も明確になった。
校務データと学習データの連携で子供がより立体的に見える。経験と勘の教育から脱却できる素晴らしい事業である。
教員が今後意識することは、データからわかる分析について校内で交流すること。どう数値を捉えて分析するか。データの見方は大変重要だ。
管理職には、学級経営や学校経営にデータ活用が役立つことの周知をお願いしたい。
「データ連携・活用によってこんな子供がこうなった、学校がこうなった」というエピソードが学校教員の心に訴える。各実証地域は本事業の全国普及のために今後も事例を積み重ねてほしい。
標準化により、学校が自由に選択できるものを増やすことができる。
初等中等教育にとって学習系システムの利用は大きなチャレンジ。本実証で活用方法や効果が明らかになってきている。データをもとにして議論できる点が良い。今後、PDCAはより重要になる。システム導入により教員負担を増やさずに効果を上げる必要がある。
オンライン大学の退学予兆を分析するなどのラーニングアナリティクス(LA)は比較的新しい分野で2010年前後から研究が始まっており、既に各大学で始まっている。小中学校においての展開を期待している。
本仕組みを全国展開するには、各教育委員会が持つ漠然とした不安や疑念を取り払う国の報告書という拠り所の提供が必要。本実証はそのためのものである。現在「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」において、校務系は「インターネットから分離する」とされている。学習系データと連携すると「完全分離」ではなくなるため、活用データに応じたアクセス制限や管理、システムログイン時における個人認証、不正アクセス対策やウイルス対策などが必須になる。クラウド等外部サービスを利用する際には、事業者と教育機関の責任分解の考え方を明確にして約款を交わす必要もある。これらのポイントを事業成果として明示していく。
本実証では、今までにない質の高い学習指導ができるように「校務系データ」と「学習系データ」を連携する仕組みを構築しようとしている。
ポイントは、教員が喜ぶ教育データ可視化システムを構築すること。「負担がない」「これまでにない指導ができる」「セキュリティも安心」すべての要素が必要である。
現状、統合型校務支援システムはインターネットに接続しないことが前提。一方、学習系データには学習ドリルなど個人情報を含むデータが多くある。校務系と学習系を連携した場合の情報セキュリティの担保という視点から、今後は、さらに将来を見据え、すべての仕組みをクラウド活用することを想定したガイドラインや個人情報の取り扱いなどを明確に示す必要がある。これらの先進的な仕組みを教育委員会や学校関係者が調達し運用することは難しい。自治体が安心して調達・運用できる仕組みと支援体制が望まれる。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年4月1日号掲載