日本大学理工学部物理学科は平成31年度から、スマートフォンとフリーソフトを使った物理教育を本格的に開始する。これまでの経緯と今後について、日本大学理工学部物理学科 鈴木潔光教授に聞いた。
理工学部物理学科がICTを活用し始めたのは、平成10年度にさかのぼる。
「コンピュータリテラシ」の授業で、エクセルを使ったのが始まりだ。その後、携帯電話の普及に伴い、携帯電話の画面を利用してグラフの描画を行ったこともある。しかし、キャリアごとにコンテンツを作成する必要があるのに加え、「携帯電話を持っていない学生には不公平」という意見も出るなどの課題もあった。
一方でこの時期から、数式処理システム「Mathematica(マセマティカ)」を導入。より詳細なグラフが描けるようになるとともに、動画を使った物理教育も可能となった。
平成20年度からは、物理学を勉強するために必要な数学を紹介し、勉学へのモチベーションを上げるため、新科目「インセンティブ」がスタート。これをきっかけに、「コンピュータリテラシ」の授業において、物理問題の答え合わせを、Mathematicaを用いて行うようになった。Mathematicaは高度な計算ができる。しかし高価なことと、利用方法がやや煩雑なところがあるという課題もあった。そこでフリーソフトとスマートフォンを使った授業を、平成31年度から本格的にスタートさせる。
こうした授業が可能になった背景には、ほぼ全員の学生がスマートフォンやタブレット端末を所持し、WiFi環境も整ったことが大きい。
具体的には、「インセンティブ」の授業において、フリーソフト「GeoGebra」(関数グラフ、平面幾何、空間図形などが扱える無料オンラインアプリ)を活用し、パラメータを変更したグラフをスマートフォン上で描画させ理解を促す。
また、授業中にスマートフォンで小テストを行い、その結果を瞬時に示すことによって、緊張感をもって授業が受けられるような取組も、31年度から本格実施していく。
鈴木教授は物理教育において、ICTを活用するメリットを次のように語る。
「板書では当然、動画を描くことはできません。プロジェクターで、パラメータを変化させたグラフや動画を提示しても、学生はノートに取り切れません。グラフをプリントにして配布しても、学生自身がパラメータを変更したグラフは描けません。このように、従来の教授方法では効果的な授業を展開するのが難しい面がありましたが、スマートフォン上でグラフを描画させれば、教員がプロジェクターで映したグラフを学生自身のスマートフォン上で描画することができ、グラフを描く復習も、いつでもどこでも可能です」
スマートフォンで解答する小テストは、結果を即座に学生に提示でき、学生の真剣度が増すという。さらに、結果がデジタルデータでダウンロードでき、学生の理解度・弱点の把握や分析が容易にできる。
「Mathematicaを利用するためには非常に高価なソフトウェアや機器が必要です。ICTを活用した教育を広く普及させるには、フリーソフトを積極的に活用していくべきだと考えます。黒板を利用した授業を否定するわけではありませんが、黒板だけでなく、ICTの良いところは積極的に利用すべきだと思います。それには、教員自身の意識改革が最も重要な課題だと考えています」と語った。
(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年4月1日号掲載