「Society5・0」に対応できる技術者育成を目指している金沢工業大学では、平成31年度の新入生から「AI基礎」を開講。2020年度からは全学部必修とする。研究室中心教育(LBE=Laboratory-BasedEducation)の取組では学生がチームとなって、ICTやIoTを活用し、企業などと連携して実践的な教育を行っている。専門性や問題解決能力だけではなく、マネジメント力やコミュニケーション力など、社会で必要とされる能力の育成まで視野に入れたものだ。
日本における水田管理は、目視による稲の生育把握、経験や勘などに頼って行われており、科学的な分析に基づいた管理がほとんど行われていない。そこでバイオ・化学部応用バイオ学科の農業プロジェクトでは、ICT技術を用いて「水田の見える化」に取り組んだ。
活動は週1回5時間で、1~2か月に1回、農業法人と打ち合わせを行った。学生は、農業法人からICTを用いて何を改善したいか聞き、これをもとに問題を明確にして、改善策についてのアイデアを検討し、水田に設置するフィールドサーバー(稲の生育に必要な環境情報をモニタリングするデバイス)を開発することとした。気温・湿度・土壌温度のセンサーの設置、農作業の邪魔にならないコンパクトサイズにすることなどを確認。作成した仕様をもとに、フィールドサーバーを開発。実際に動かしてみると、センサーの位置が認識しにくく、農作業中、草刈機でセンサーを切断する事故が発生したり、フィールドサーバーの導入費用が高いなどの問題が発生した。そのため、これらの問題(顧客要求)について対応して、市販のものと比べ、導入・運用コストが低く、農作業の邪魔にならない移動可能サイズのフィールドサーバーを開発することができた。
今回のプロジェクトを通じて、学生は農業法人からの要求を汲み取り、要求に対応できるシステムの構築手法や、動作テストにおける課題の抽出・解決の方法など、正課授業では経験することが難しい内容を学ぶことができた。今後は、AI・機械学習によるセンサデータ解析や画像処理による葉色診断、水門、ドローン、農業機器の自動制御などに取り組む考えだ。
ロボティクス学科では、農業支援機器およびシステムの開発を通して、高齢化・後継者問題から生じる農業従事者の労働力・効率化の課題解決に取り組んでいる。
地元の農業関連企業などと連携したいちご栽培に関する実証研究では、北菱電興(金沢市)と共同で開発を進めている環境モニタリングセンサーをいちご栽培ハウス内に設置。既存のセンサーと組み合わせて、温度や二酸化炭素の濃度、湿度のむらなどをモニターし、必要に応じて、空調管理やカーテン制御を行い、ハウス内の環境を一定に保つようにした。これにより、均質でおいしいいちごを栽培しようとしている。
ハウス内の環境をPCやタブレットで確認し、遠隔監視や操作も可能だ。労働時間や労力軽減にもつながるため、次世代型の営農システムとして、新たな農業従事者の確保にもつながると期待されている。(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年2月4日号掲載