教育ICTの加速化を目指す全国ICT教育首長協議会は第3回全国ICT教育首長サミットと2019日本ICT教育アワード最終審査会・表彰を1月17日、東京都内で開催した。会長を務める佐賀県多久市の横尾俊彦会長はICT環境を整備してAI時代に備えた学びを全国に拡大するため、2月には地域サミットを開催すること、協議会でパンフレットを作成したことを報告(欄外参照)。「Society5・0に対応できる学びを推進するための予算確保や計画立案のための資料としてほしい」と話した。現在、本協議会には125自治体が加盟。
Society5・0時代の先端技術を活用した学びは既に始まっている。つくば市立みどりの学園義務教育学校の児童生徒9人は、8年生が2年生にPC活用を教えている様子やプログラミングの授業など同校の学びの様子をプレゼンテーション。2年生と5年生はプログラミングで制作した作品について説明。5年生の児童は自主的に「初めてのScratch」というプログラミング解説書も制作した。
東原義訓教授(信州大学教育学部)は「データを高度に活用していく点がSociety5・0時代の学びの大きな特徴。既に着手している学校があり、その成果が出ていることが児童生徒のプレゼンテーションでわかる」と述べた。
1人1台のPCとクラウド活用という一般に当たり前になっている環境を教育現場において一刻も早く実現するための事業として「未来の教室」を実証中(関連5面)。広域調達やクラウド活用でコストを下げる工夫や知恵の実践や周知について協議会のリードを期待している。
変化し続ける社会を生き抜くための情報活用能力育成のための環境整備は大人の責務。整備の遅れに文部科学省では危機感をもっており、柴山・学びの革新プランを取りまとめた。Society5・0の時代に自信をもって子供たちを送り出せるよう機運を高める。
昨年から日本ICT教育アワード・総務大臣賞を創設した。全国の地方公共団体の選択肢を広げる製品が増えている。未来投資戦略に基づいて地域でだれでもプログラミングを学ぶことができる地域ICTクラブの拡大と人材育成に取り組む。
日本ICT教育アワードは、全国ICT教育首長協議会のモデルケースとしてふさわしい事例を選出するもの。首長の主体的な行動や、他地域でも展開可能な点も評価。文部科学大臣賞はそれに加えて文科省「ICT教育環境整備方針」に則った整備も選出のポイント。同賞には滋賀県草津市が選出された。様々な工夫を持って長年にわたり整備・活用を推進している点が評価された。
総務大臣賞はプログラミング教育や無線LAN環境の進捗が選出のポイントで、佐賀県多久市が受賞。学びと働き方改革を両立するフルクラウド環境が評価された。
アワード賞候補として最終審査プレゼンテーションに4市が参加。当日参加した協議会メンバーの投票により、以下の受賞が決まった。▼日本ICT教育アワード=佐賀県武雄市▼会長賞=石川県加賀市▼審査員長賞=福岡県田川市▼日本視聴覚教育協会会長賞=長野県伊那市
川那邊正教育長が「元気な学校をつくる草津市の戦略9」についてプレゼンテーション。
草津市(小学校14校、中学校6校)の全普通教室に電子黒板と実物投影機を配備。3学級に付き1学級分のタブレットPC計4800台を配備している。
全14小学校1中学校では人型ロボットPepper計100台を活用してプログラミング教育を行っている。教育長は「9つの戦略で元気な学校づくりが実現した。
プログラミング教育はかなり定着している」と報告した。
田原優子教育長は多久市(義務教育学校3校)の教育フルクラウド改革による児童生徒の学び方改革と教職員の働き方改革プロジェクトについて報告。
「小さな自治体にとって大きな挑戦だった。様々な障害があったが、首長の思いもあり実現した。教員の約1/4は自己肯定感が低かったが、校務も学習履歴も活用できる教育フルクラウド環境により、約3か月で協働学習の実施が8割になり、教員の意識が変わった。家庭でも仕事をできる環境を提供することで、子育てや介護に従事している職員の7割以上がテレワークを利用している。最もアクセスの高い時間は朝6時、次が夜の9時。今後もさらに業務は効率化できると考えている」と語った。
福田孝義ICT教育監がプレゼンテーション。武雄市(小学校11校、中学校5校)では全児童生徒用に1人1台の可動式端末を配備。小学校1~3年生はAndroidタブレット、小学校4~中学校3年生にはWindowsタブレットとした。平成30年度には全校全普通教室の電子黒板を更新しており、現在特別教室に拡大中。無線LANなどネットワーク環境も再構築した。ICT支援員も各校1人配置。市ではこれまでの教育の良さを維持しながらICTのメリットを取り入れて授業改善を進めることを目的に整備・活用を推進。時代に求められる環境整備にいち早く取り組んでおり、現在進めているプログラミング教育は9年間を見通したカリキュラムを策定して実施している。
山下修平教育長がプレゼンテーション。加賀市(小中学校25校)ではタブレットPC346台、ノートPC100台、無線AP167台、プログラミング学習用ロボット375台、児童用Raspberry Pi(ラズベリーパイ)450台等を学校に配備するほか、地域ICTクラブにノートPC21台、プログラミング教材33台等を配備。2020年度までには3クラスに付き1クラス分の可動式PC配備を進める方針だ。
学校を核として地域ぐるみでプログラミング教育を推進しており、指導者養成事業や国際大会の参加、海外派遣事業なども実施。夏休みには全19小学校で22回ラズベリーパイ教室を開催した。国内初のコンピュータクラブハウスの設置をクラウドファウンディングによる資金調達(ふるさと納税)で準備中だ。
田川市のICT環境施策について吉栁啓二教育長がプレゼンテーション。全校(小学校8校、中学校7校、小中一貫校1校)の全普通教室176教室に電子黒板、教室用PC、実物投影機、デジタル教科書(国語・算数・数学・英語)を一斉配備。電子黒板の全校整備を始めとする教育改革により、人口減が進む負のイメージを払拭する。毎週火曜日に行う「3本の矢の会議」は、これまで100回以上開催。文科省・ICT活用教育アドバイザー派遣事業によりアドバイスを受けながら、構想後5か月間という短期間で組織を編成してビジョンを策定して着手。ICTを活用した授業公開を年間3回実施するなど、財政課と何度もやりとりがあったもののスピード感を持って推進。首長の強い思いがあり、行政と学校が一体となって取り組んだ。平成30年10月には事例集第Vol・1も作成。首長部局にも配布してさらなる推進のための機運を高め、「教育と文化のまち、田川スタイル」の確立を目指す。
笠原千俊教育長がプレゼンテーション。伊那市(小学校15校・中学校6校)では市全体でスマート農業やドローン物流、自動運転などIoT活用を推進。院内学級の児童の授業参加や海外交流など遠隔授業も推進。小規模校の児童の熱心さに中大規模校の児童が刺激を受けるなどの効果や成果を実感している。信州大学の協力により、「学校教育の情報化ビジョン2017」を策定。2020年までに市内全校に3クラスに付きタブレット型PC1学級分・全1900台、全校全普通教室356室に実物投影機・電子黒板・PCを、全教員に指導者用PCを整備する計画だ。無線LANは市内全校に整備済。教育コーディネータやエリアコーディネータは整備済で今後も継続。ICT支援員は2020年から段階的に増員する。
全国ICT教育首長協議会は、首長向けパンフレットと担当者向けパンフレットを作成した。
担当者向けパンフレット「教育ICT化が進まない…なぜ?」は、都道府県市区町村の財政・情報・政策・秘書担当及び教育委員会の情報・政策担当者を対象に、教育の情報化推進計画立案に向けた問題解決の方策をまとめたもの。教育のICT化が進まない理由を明らかにする「チェックシート」16項目に対してそれぞれのアドバイスを掲載した。課題を解決した代表事例も項目別に掲載。予算確保については岐阜県岐阜市、東京都荒川区、組織内の連携については島根県美郷町、滋賀県草津市、青森県弘前市、関係機関の連携については佐賀県武雄市、東京都日野市の事例を解決策として提示。予算確保や政策立案時に活用できる。
首長向けパンフレット「あなたのまちの学校がICT教育を導入しなければならないたったひとつの理由」では、「あなたの地域の未来は、2020年までのICT環境整備にかかっています」「主体的・対話的で深い学びの実現にはICT活用のできる環境が必要です」と訴求。全国ICT教育首長協議会加盟自治体名と主なICT導入・活用事例(茨城県つくば市、長野県下伊那郡喬木村、大阪府箕面市、佐賀県多久市、愛媛県西条市、熊本県球磨郡山江村)や平成30年以降の学校におけるICT環境の整備方針の目標数値等の基本情報を掲載。首長のリーダーシップ発揮のためにも同協議会加盟を呼び掛けている。
▼全国ICT教育首長協議会事務局=https://ictmayors.jp
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2019年2月4日号掲載