平成29年、札幌市、北海道大学、市内のIT関連企業などが連携して立ち上げた「Sapporo AI Lab(札幌AIラボ)」では、AI(人工知能)関連技術を活用した新規ビジネスの創出やAI関連人材の育成などの活動を行っている。近年、大きな広がりを見せているAIを突破口として、札幌市の産学官が連携してIT関連産業の新たな未来を創出することがねらいだ。
札幌AIラボ長は、人工知能の研究者である北海道大学教授の川村秀憲氏だ。
札幌AIラボのリーディングプロジェクトは「札幌市コールセンターデータを活用したAI自動応答システム構築実証事業」だ。
札幌市が運営するコールセンター「ちょっとおしえてコール」には、様々な問い合わせ(制度や手続き、施設、行事、公共交通案内など)が寄せられる。問い合わせの内容や結果は、個人を特定できないようにして、文字情報として記録。そこでプロジェクトでは、これまでの応対記録約140万件をビッグデータとして活用し、市民からの市政関連の問い合わせにAIが回答するシステムを開発した。そのうちの1つ「さっぽろ駅バスNAVI」は、スマートフォンやPCなどからLINE上に質問内容を打ち込むとAIが回答する。
プロジェクトの成果物である自然言語解析(固有表現抽出)AIエンジンのソースコード、開発過程で生成した学習済みモデル、学習用データのサンプルなどは公開されており、営利・非営利を問わずダウンロードできる。
「AI×手話プロジェクト」は、手話の動作をカメラで取り込み、AIによってテキストに変換するシステムだ。
薬局で商品を購入するシーンを想定したシステムを、プロトタイプとして開発。このシステムを活用することで、手話が分からない薬剤師ともコミュニケーションを取ることができる。
同プロジェクトには、北海道大学大学院 情報科学研究科の山本雅人教授の研究室が参画。カメラで取得した手話の映像を、AIを使って日本語の文章に変換し伝える部分の開発を担当した。
札幌AIラボは、地元で開催されている映像・音楽・ITの融合イベント「No Maps(ノーマップス)」と連携し、新産業創出の後押しも行っている。ノーマップスは、札幌および北海道を「実証実験・社会実装の聖地」とすることを目指して開催しているイベントだ。このほかさっぽろ円山動物園と連携して飼育動物の膨大な生態データを集積・分析することで「動物専門員」にノウハウを提供。飼育動物の活動性と行動の多様性を高め、野生と同様の行動を引き出し、望ましくない異常な行動を減らすことなどを目指す。
AI人材育成の取組としては大学連携サテライトゼミの実施、AI人材育成のためのワークショップやセミナーの開催、AIを活用したビジネスに関するコーディネート、企業の研究提案と研究者マッチングにも取り組んでいる。(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年12月3日号掲載