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教育ICT

「教育クラウドはなぜ必要か」検索できない教育環境は「生きる力」「知恵」を奪う

2018年12月4日
左から清水久裕氏(アドビ)と佐藤昌宏教授(デジタルハリウッド大学)

左から清水久裕氏(アドビ)と佐藤昌宏教授(デジタルハリウッド大学)

Edvation×Summit2018が11月4・5日に東京都内で開催され、教育とEdtechに関する多様な事例報告やパネル討論、ワークショップが行われた。主催は一社・教育イノベーション協議会(代表理事=佐藤昌宏教授)。「外資ITからみた日本の教育クラウド」セッションに登壇した清水久裕氏(アドビ)と佐藤昌宏教授(デジタルハリウッド大学)に、教育クラウドの必要性について聞いた。

--教育クラウドはなぜ必要か

グローバルでは教育クラウドが既に一般的に活用されています。

理由は、教育クラウドは一定の基準をクリアしており、効率的で安全で、多様なサービスが享受できるから。かつては自らサーバを立ち上げ、アプリケーションを開発することで安全性を担保しようという動きがありました。しかし、多様なサービスが生まれ、膨大なコンテンツやサービスを享受するために高スペックのマシンを準備することには限界があります。クラウドを活用することで、更新作業などは事業者が責任を持って担保、使い勝手は軽くなり、高スペックのマシンは不要になります。教育クラウドからソフトウェアサービスを享受する、という潮流は自然な流れといえます。

--Adobe Creative Cloudがクラウドに移行した理由

PhotoshopやIllustratorなどのアドビ製品は当初、ニッチかつ高スペックマシンが必要な製品としてデザイナーなどを中心に活用されていました。それが今や、画像加工や動画編集ニーズが広がり、幅広いユーザに支持されるようになりました。通常のPC環境以外で幅広いユーザが活用するためには、Webベースでの利用方法に移行するしかありません。ユーザが多様化するほど、クラウド活用は有効であり必須になります。

現在アドビ製品は「インストールして活用する」ソフトウェアアプリケーション形式となっていますが、近い将来、Webベースでのアプリケーション提供に移行する予定で準備を進めています。iPadPro向けには平成31年度中にPhotoshopアプリを提供する予定です。

さらにクラウド化において重要な点の一つは、クラウドに移行するとビッグデータの活用も可能になる点です。アドビでは、AIを活用した仕組み「Adobe Sensei」を開発しており、その一例が画像検索システムを備えた「Adobe Stock」です。これは「桜」「写真」「一本」などと条件を決めて検索をすることで、何万枚もの画像から最もニーズに合うであろう写真や絵を検索するサービスです。何万枚もの画像の保有や提供は、CD-Rなどでは限界がありますが、クラウドならば無制限に検索対象となります。さらにAI機能も備わっているので、検索ワードに従って他の利用者の採用率が高い画像から提供していくなども可能です。

--クラウドのセキュリティについて

日々セキュリティの新たな脅威が生じている中、その管理を非専門家が行うことは非効率的です。脆弱性などのセキュリティも事業者が担保することで、管理コストを低減することができます。
「他社にシステムやデータを預ける」点において学校のポリシーと相反する可能性もありますが、そのポリシーが本当に適切なのか、と問い直すべき時期にあるのではないでしょうか。

大人のITリテラシー不足に伴うリスクを、学習者の利便性、学びの選択肢を制限・犠牲にすることにより、解決しようとしているとも考えられます。日本の個人情報保護法は、「インターネットに繋がなければ安心」という流れにありますが、それが果たして本当に安全を担保できる法律なのか。テクノロジーの進化を視野に入れた法律の見直しや業界基準が求められるところです。

グローバルではCOPPA(=ChildrenOnlinePrivacyProtectionAct)という基準があります。COPPAにより13歳未満の個人情報取得は禁止されており、Facebookを始めとする各種SNSサービスのアカウントは、13歳未満は取得できません。

医療業界や建築業界、金融業界では、クラウド導入の際の一定基準を示して活用を進めています。教育業界にもそのような基準が求められています。

政府情報システムにおけるクラウドサービスの利用に係る基本方針「クラウド・バイ・デフォルト原則」(内閣官房IT総合戦略室)では、クラウドは「効率性の向上」、「セキュリティ水準の向上」、「技術革新対応の向上」、「柔軟性の向上」、「可用性の向上」に寄与する仕組みであると示しており、「インターネットとの接続の有無のみによって、情報システムの安全性を単純に判断してはいけない」と指摘しています。

--日本の教育現場で必要なことは

「自分が理解していないものは子供に提供できない」「子供に質問されたときにすぐに回答できないと落ち着かない」という教員の声をよく聞きます。しかし、テクノロジーがどんどん発展していく今、すべてのことを「教える」ことは既に不可能です。新しい知識を知るためにどんなアクションをとるべきなのか、何を利用してどう知識を取得すべきか、について子供と共に学ぶ姿を示していくことがこれからの学校であり、学びの場となるのではないでしょうか。

重要なことは、「調べる」手法、即ち「検索ツール」の活用です。インターネットに接続できず「検索できない」という学校環境は、社会人になったときに重要な能力の1つである「検索能力」の育成を阻むものです。「検索」できないことは「知恵」「生きる力」を奪うことであると言っても過言ではありません。自由な教育環境の早期な実現が必要である、という理解を一層広めていきたいと考えています。

 


【教育クラウド】パブリッククラウドの教育利用のこと。パブリッククラウドには次の3種がある。▼IaaS=インフラのみを提供してシステムは自分で構築するもの。設計が必要 ▼PaaS=インフラとミドルウエアのみ提供。▼SaaS=インターネット経由でアプリケーションを提供。データをインターネット上に保存でき、複数の人間が同一データを共有し、更に編集できる。Office365やGoogle Apps 、Adobe Creative CloudなどはSaaSに分類される。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年12月3日号掲載

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