子供の人口減で学校統廃合が進んでいる大阪府守口市(小学校13校、中学校7校、義務教育学校1校)では、ゼロ歳児からの幼児教育完全無償化を全国初で実施するなど子育て世代の支援に力を入れている。教育長方針もあり、学力向上と教職員の働き方改革の実現に向けて現在、情報機器端末1792台(PC教室用Windowsタブレット820台、iPad972台)、教職員校務用PC735台、アクセスポイント394台(普通教室352台、職員室21台、PC室21台)を整備して全普通教室、PC室、職員室を無線LAN化。授業改善や校務の効率化を一体的に推進している。ICT環境整備とICT教育推進を担当している守口市教育委員会事務局の持田裕一指導主事に、整備内容とそのポイント、整備計画推進の方法を聞いた。
守口市では、総務省地域雇用創造ICT絆プロジェクトや文部科学省スクール・ニューディール事業など平成21年度から国の事業方針に則って全普通教室に電子黒板や実物投影機(書画カメラ)を設置しており、教員はどの授業でも日常的に使用している。市教委による調査では、市内の児童生徒の9割以上が「電子黒板や書画カメラを使った授業はわかりやく学習の理解が深まる」「先生が電子黒板や書画カメラ等のICT機器を使って授業をしている」と回答。ICT機器は黒板やチョークと同様、授業でなくてはならない「教具」の1つとなっている。
次の段階の整備として平成27年度、中学校統廃合により新設された市立樟風中学校をICT教育推進研究校に指定し、新学習指導要領で求められている「主体的・対話的で深い学び」の視点による授業改善の実現と子供たちの情報活用能力の育成を円滑に進めるため、新たにWindowsタブレットPC10台、iPad90台、移動式の無線アクセスポイント(AP)を各学年2台ずつ計6台、特別教室に無線APを常設。図書室をメディアセンターとしてタブレット端末を持ち込んで調べ学習などができるようにした。
同校に先行して整備した理由は、平成23~25年度の絆プロジェクトにより1人1台の情報端末や電子黒板、実物投影機などの活用を先進的に進めてきた小学校から進学する児童が多く、小中連続したICT活用による教育効果を示すためだ。
平成28年度に新設した義務教育学校「さつき学園」の整備内容については樟風中学校の成果を踏まえて検討。同校もICT教育推進研究校とし、日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)会長の赤堀侃司氏など外部有識者からの指導助言を得ながら整備と授業活用を進めた。
さつき学園では、PC教室にWindowsタブレットPC41台、iPad80台、全普通教室及び理科室、音楽室等に大型提示装置(電子黒板)と無線AP計29台の常設整備だ。樟風中学校では移動式無線APであったが、授業前の機器の準備に時間がかかったことから、さつき学園では常設化。これによりさらにタブレット端末の活用が進み、全校につながった。
両校ではICTを活用した公開研究授業を実施。市内の教員にも参観してもらうことで効果的なICT活用やICT環境の在り方について市全体で研究を深めた。
さつき学園及び樟風中学校の成果を踏まえ、全小中学校の整備に着手。
平成28~30年度にかけて樟風中学校、さつき学園以外の全小中学校のPC教室にキーボード着脱式(2in1)WindowsタブレットPCを41台、可動式タブレット端末としてiPad42台を整備。教室に持ち込んで活用できるように全普通教室に無線APを整備した。
市では今年度より全小学校にプログラミング教育推進教員を位置付けており、プログラミング教育にも力を入れている。そこでPC教室のタブレットPCは文字入力やプログラミング教育に対応できるようにキーボート搭載で画面サイズ12インチ以上のものとした。ビジュアルプログラミングは、慣れない児童ほど長くなりやすく、ある程度大きな画面が必要であると考えたからだ。
プログラミング教育推進教員を対象に研修会も実施。12月25日には市内小学6年生を対象としたプログラミング体験授業を開催し、文部科学省プログラミング教育戦略マネージャーの中川哲氏も招へいする予定だ。
一方可動式タブレット端末は、タッチ画面で直観的に操作ができ小学校低学年にも使いやすく持ち歩いて活用しやすいように9・7インチのiPadを導入。教育用アプリが充実していることからより自由な活用を期待しての整備だ。端末を一括管理できるようMDMも導入。充電保管庫も整備した。授業支援システムも導入。小学校はxSync(バイシンク)、中学校はSTUDYNET(スタディネット)を活用。現在、市内のタブレットPC活用推進リーダーの教員が中心となって授業で活用しながら実践研究を行っているところだ。
PC教室と普通教室で無線APを使い分ける
市では職員室と小学校PC教室に高性能無線AP「WAPM―2133TR」、普通教室用には「WAPM―1266R」(バッファロー)を整備した。
職員室では校務処理する際、朝や夕方もしくは学期末などに一斉にアクセスが集中する場合が多い。そこで多台数の端末が一斉に接続するなど高負荷な条件にも対応できる性能を考慮。スマートフォンを所持する教員も多く、干渉波自動回避機能の搭載も必要であると考えた。
PC教室ではWindows更新やアプリ・動画等の一斉配信、DLなどに耐えられる高機能な無線APが必要と考え、職員室及びPC室に「WAPM―2133TR」を導入。
普通教室でも同様の機能が望ましいものの、全教室整備の際のコストについても考慮。小中学校の普通教室には40台が同時接続しても問題なく使える「WAPM―1266R」を導入した。
無線AP管理については教育センターから遠隔で一括管理・障害対応できるように管理ソフトをオプションで導入。これにより全小中学校の無線APを管理している。
どちらの無線APも台風や地震などの災害時には体育館や特別教室などに持ち込み、教育センターからその場所を無料Wi―Fiとして開放できる「緊急時モード」を搭載している。守口市の小中学校では無線APを「常設」しているが「固定設置」せず、いざというときに移動できるようにした。
持田氏は「今年は特に災害が多かった。災害時、普通教室やPC教室は授業で使いたい、しかし避難所の無線Wi―Fiは開放したい、というニーズに対応できるように、災害時には避難所に持ち込めるようにした。避難所となる学校では防災Wi―Fi機能の無線AP整備は必須」と話す。
平成30年度は教職員用PCも入れ替えた。現在、講師も含め全教職員PC1人1台体制で校務支援システムも活用している。
職員室のネットワークは有線LANから高性能無線APに入れ替え、セキュリティ確保にも配慮。校内ネットワークはV―LANで切り分け、職員室では校務サーバや校務支援システムにつながるが、教室では校務サーバにつながらずに学習用ネットワークにつながる仕組みとした。
職員会議や学年会議などで校務用PCをどこでも自由に利用できることから活用しやすくなり、会議のペーパレス化や業務改善につながった。
現在はさらなるペーパレス化や校務の効率化を図るため、職員朝礼や職員会議等ではMicrosoft「OneNote」を全校で利用。1人がPC上で連絡事項を書き込むと校内の全教職員の校務用PCに情報が共有されるデジタル掲示板のような仕組みだ。
クラウドサービスOffice365for Educationも導入。自宅のPCでも教員が教材データを編集できるようにする予定だ。定期テスト等のデジタル採点システム(Answer Box Creator)や、ICカードによる出退勤管理システムも全校に導入。教職員の働き方改革を大きく進めている。
「校務支援システムなど、校務の効率化を実現することで、教員が子供と向き合う時間の確保にもつながると考えた」と持田氏は話す。次年度は、学校サーバの更新時期であり、これに伴いセンターサーバ化して一元管理する計画で準備中だ。
持田氏は予算確保のポイントについて「子供の様子を見てもらい理解を得ること。市のICT教育推進研究校は平成26年度から毎年指定しており、研究テーマも学校も変えて実施している。公開研究授業では議員や市長部局の職員にも声かけしている」と語る。
学校での活用の様子が分かる数多くの写真や国の動向に関する資料、児童生徒を対象にした調査結果などをまとめた分厚い資料を常に携帯して説明資料として活用。整備完了後も継続して研究に取り組んでおり、国の動向や方針なども含めて常に情報を収集。その成果を踏まえた政策立案、整備につなげている。
タブレット端末が児童生徒1人1台の環境であれば、調べて書き込む、全体で共有する、発表するなど「主体的・対話的で深い学び」の授業を様々な教科で実践できる。
例えば理科の授業ではこれまで教員中心に説明していた実験の方法も、各班のタブレットに実験方法を配信して子供たちが自ら調べながら進めることができ、主体的な活動につながった。
家庭科の調理実習でもタブレット端末を活用。「ムニエル」の基本の作り方を配信し、さらにより美味しく調理する工夫をインターネットで調べるなどしている。
英語の授業では自分の学校を英語で紹介するスライドを作成し、タブレットで発表し合う活動も行っている。
美術の鑑賞では作品をタブレットに配信。より鮮明に作品を手元で、カラーで見ることができ、注目したい所を拡大することで気づきや関心が高まっている。
算数や国語の授業では、自分の考えをタブレット上に書き込んだり、ノートに書いたものをタブレットで写真に撮って、授業支援システムで電子黒板側に送信してクラス全員の意見を比較、瞬時に共有。深い学びの実現につなげている。
体育では、マット運動やバスケットボール等で撮影し合って自分の動きを確認。技能の向上につなげている。
教員は校内研究会でタブレット端末を活用。研究授業の際、参考になる板書や子供の様子などをタブレットで撮影し、その後の討議会で、タブレットを見ながら授業の良かった点や改善点を話し合うなどしている。
全小中学校整備に伴い、守口市ではタブレットPC活用推進リーダーを公募。若手教員が多いものの中堅層の応募もあり、現在市内の学校の教員15人が研修中で、タブレットの効果的な活用を先進的に研究しながら実践を積み、その後、他の教員に指導する立場となって研修講師等で活躍してもらう計画だ。
守口市ではICT活用事例集を発行して市内全教員に配布してきた。教員のICT活用が進み自作のデジタル教材の作成が広がっていることから、平成29年度より「もりぐちICT学びの教材コンテスト」を開催。自作のデジタル教材と指導事例を募り、教育長賞などを表彰している。昨年度はデジタル教材「給食ができるまで」などが賞を獲得。栄養教諭が給食室の様子を動画で編集したもので、教員のICT活用の浸透を実感しているところだ。
守口市では今年度、ICT推進研究校を3校指定し、WindowsタブレットやiPadを効果的に活用した公開授業研究会を実施する。3校は市立大久保中学校(11月21日)市立守口小学校(平成31年1月15日)市立第一中学校(同2月26日)。プログラミング教育に関しては、レゴWeDo2・0を活用したプログラミング教育の公開研究授業も来年1月21日に実施予定。▼問合せ=市教育センター(06・6997・0703)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年11月5日号掲載