広島大学情報メディア教育研究センターでは平成20年からLMS利用を促進するため著作権処理を支援。大学のコンプライアンス向上につなげている。その方法について同センターの隅谷孝洋氏に聞いた。
広島大学は12学部11研究科を擁する総合大学だ。
教育力と研究力を両輪とし、世界トップレベルの「特色ある総合研究大学」を目指している。
文部科学省「平成26年度スーパーグローバル大学創成支援」タイプA(トップ型)13大学のひとつとして、中国四国地方で唯一採択された。
同大学では平成13年頃から、授業の情報化を推進するための1つとしてオンライン学習システム(LMS=Learning Management System)の利用を推進してきた。しかし、ここにひとつ「落とし穴」があったという。
著作権法35条では「授業の過程で利用することを目的として複製する場合」は、他人の著作物の複製が可能なため、教科書やインターネットの図表を複製してスライド教材として使用する教員が多い。
しかし、このスライドのLMSへの掲載は、著作権法35条の権利制限の範囲外で、基本的に元の著作権者から許諾を得ることが必要だった。
「こうしたことは、先生方はあまり知りませんし、もし知っていたとしても許諾を得るための処理はかなり大変です。そこで、大学からの支援が必要ではないかと考えました」と隅谷氏は話す。
こうして平成20年頃から、著作権処理についての支援と啓発の活動が始まった。
情報メディア教育研究センターではこれまで、次のような支援を行ってきた。
▼教職員・学生向けの講習会や講演会などを収録したものを学内限定で動画配信するにあたり、そこに使われているスライド資料の著作権処理 ▼大学の授業紹介動画を一般向けに配信するにあたり、そこに使われているスライド資料の著作権処理
「授業で使う資料の著作権処理を支援しようとスタートしましたが、実際には授業で使うための資料よりも、学内で一般に公開するもの、あるいはネット上に公開するもの、しかも動画の中で使う場合の処理が多いことがわかりました」
著作権処理は、主に次のような手順で行う。
①転載されている図表(テキストよりも図表が多い)の著作権者を探し、利用条件を調べる
②必要に応じて、許諾を得るために著作権者に連絡
③許諾が得られない場合は、その図表などの代替として自由に再利用できるものをネットで検索
④ネットで見つからない場合は、ぼかしたり削除したりといった動画処理を行う
⑤もしくは、元のとは違う形で図表を自作する
著作権処理の支援を行うことで、著作権侵害の可能性を下げることができ、大学のコンプライアンス向上につながっているという。
また、著作権処理の面倒さを理解し、コンテンツの作成時において著作権処理が軽くなるよう配慮してくれる教職員も現れるなど、著作権意識の向上においても変化が現れている。
「著作権法35条の改正で、今後は授業で使う資料については、ほぼ支援は不要になるでしょう。一方で、授業以外で学内外へ向けての動画を活用した活動は今後増大していくと思われます」
しかしながら、事業にかかる予算が縮小傾向にあるため、支援サービスを大幅に拡大させることは難しい。そのため、啓発活動に重点を置いていく考えだ。
隅谷氏は「教職員の方々が著作権の知識を持ち、コンテンツを作るときに少しずつ配慮してくれることで、全体的な処理量を減らしていく方向を目指したい」と話した。(蓬田修一)
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年10月1日号掲載