情報教育担当者連絡会議が9月4日、文部科学省で開催され、全国の教育委員会の情報教育担当者が参集した。情報教育課の髙谷浩樹課長は、教育の情報化に係る文部科学省の最新動向、平成31年度概算要求について説明。文科省各担当者は著作権法改正や外国語教育におけるICT活用に関して、総務省は教育の情報化に関する取組「スマートスクール・プラットフォーム事業」「地域ICTクラブ普及推進事業」について説明した。さらに各教科調査官がICT活用やプログラミング教育の事例を紹介した。
髙谷課長は「社会の大きな変革の波が押し寄せている。2020年度からの新学習指導要領の実施を見据え、教育委員会内の理解促進、首長部局への積極的な働きかけにより、自治体における教育の情報化施策の優先度を上げてほしい」と述べ、以下3点の早期実現を求めた。▼3クラスに1クラス分の学習者用可動式PC、普通教室等への無線LAN整備を始めとする「2018年度以降の学校におけるICT環境の整備方針」を踏まえた整備 ▼小学校におけるプログラミング教育の必修化への万全の準備 ▼授業中にICTを活用して指導できる教員100%
平成31年度予算についても説明した。
国語、社会、算数、理科、外国語、総合的な学習の時間、音楽、図画工作の教科調査官が新学習指導要領で求められているICT活用の事例を説明。社会、算数、理科、音楽ではプログラミング教育の取り扱いや事例についても言及した。
国語科の学習指導要領では「児童がコンピュータや情報通信ネットワークを積極的に活用する機会を設けるなどして、指導の効果を高めること」とある。国語科の特質を踏まえたICTの効果的な活用例として以下を挙げた。▼話すこと・聞くこと=タブレット型端末等を使って自分や友達のスピーチを録画、「適切な声の大きさ」「言葉の抑揚や強弱」「間の取り方や表現の工夫」などの観点に沿って振り返り課題を見つける/話し合いの様子を録画・再生して話し合いの進め方をふり返る ▼書くこと=インターネットで検索した情報の引用や文書作成ソフトを活用して文を作成。引用した箇所と自分の考えを関連付けて記述できるようにする/電子辞書の活用により語彙を豊かにする ▼読むこと=友達の意見や感想を見比べる際にタブレット端末を活用。即座に確認し合ったり特定の意見を拡大表示したりして学びを共有する
中教審答申では「主体的・対話的な学びの過程でICTを活用することも効果的である」と指摘。学校図書館や公共図書館、コンピュータなどを活用して情報を収集、まとめを行うこと、すべての学年において地図帳の活用が求められている。教科調査官は「ICTを活用することで学習活動の幅が広がる」と指摘。迅速な情報収集や、見えにくい情報を見えるようにできること、事実と事実の関連付け、情報交換の迅速さにより考えを深めるたり広めたりすることができる点を教科学習で活かす事例を紹介した。
プログラミング教育についても言及。単元「47都道府県の名称と位置」において都道府県の地理的環境や自然条件、面積、人口や特産物などの特色を組み合わせて県を特定する活動を通じて47都道府県の名称と位置を理解する目的につなげる事例を紹介した。
新学習指導要領で例示されている「正多角形」のプログラミング教育事例を紹介。Scratchを利用して正多角形をかく方法を考える活動のねらいは「プログラムを使って正多角形がかける」ことではなく「どのようなプログラムをかけば正多角形がかけるかを考える」すなわち「規則を理解」すること。つまずきを修正して検証を繰り返すことが最も重要。
「結果を明確にしてしっかり考察」することが重要なポイントの1つ。そのためにも実験・観察でのICT活用が効果的。タブレットPCを見ながら実験をふり返り考察を深め、問題解決能力育成につなげる。「全国学力・学習状況調査の調査結果を踏まえた理科の学習指導の改善・充実に関する指導事例集」には多様な事例を掲載した。
移行期間対応とiPadを活用した事例、スカイプやインターネットを活用した事例を紹介。
移行期間用外国語活動対応新教材は、中学年用は移行期以降も活用。高学年用は移行期間のみ活用することを想定。
iPadを活用した事例として「お勧めの国についてインターネットで調べて資料を作成、各ブースで紹介した後自分の行きたい国を発表する」実践を紹介。
遠隔を活用した事例として、外国のライブカメラにアクセスして世界各国に興味関心を持つ、外国の子供や元ALTと遠隔でつないで自分の住む地域や学校を紹介し合う、パフォーマンステストで活用する、フィリピンの講師と遠隔でディスカッションやディベートを行う、AIによる英文エッセイの添削ソフトを活用した実践を紹介。
総合的な学習の時間におけるICT活用について2事例と不適切な活用にならないためのポイントを示した。
1つは、実社会の中の課題を解決していく探究活動でまとめの際に動画表現で発信する事例。もう1点は「インバウンド増加に向けて日本の魅力を海外に発信する」などの地域の活性化に向けた課題の解決に向けて、取組の記録、振り返り、進捗の共有の際に情報機器や情報通信ネットワークを活用して自立性、協働性を促す事例。小学校学習指導要領解説では、このような取組を円滑に進めるため、PCでの文字入力などの基本操作の習得や情報及び情報手段を適切に選択・活用できることを求めている。
不適切な活用にならないためのポイントとして、活用の目的、資質・能力の育成との関連付け、多様な情報手段から選択できること、直接体験を盛り込むこと、改善の余地があること、社会参画や貢献などで活用することなどを挙げた。
写真をもとにして話し合う、制作過程を写真や動画に残して振り返る、用具の説明の際に実物投影機で手元を拡大したり、動画を活用したりする事例などを紹介。
小学校プログラミング教育の2020年度スタートを円滑に迎えるには、計画的な準備が必要。今年度中にはすべての自治体で模擬授業を実施し、不足事項を補完して2020年度を迎えてほしい。
新学習指導要領を実現するためにも、喫緊の課題である教員の働き方改革を進める上でも、今後ICT支援員は不可欠。「4校に1人の配置」として地方財政措置に積算されている。文部科学省では「ICT支援員の育成・確保のための調査研究事業」において、必要なスキルを定めている。Webに公表しているので参照してほしい。
小学校における「プログラミング的思考」の育成とは、情報技術が社会を支えていることやプログラムの働きを知り、身近な問題の解決に向けてコンピュータ等を活用してよりよい社会を築こうとする態度などを育成すること。家電や自動車など身近なものにコンピュータが内蔵され、人々の生活をより便利に豊かにする社会になった。コンピュータの仕組みを知ることで「魔法の箱」ではないことを知り、その仕組みを創造できる力の育成が、将来の社会で活躍できるきっかけになる。今後どのような職種が生まれたとしても、この能力は共通して求められる。実社会において、課題解決のために情報技術を活用しているように、小学校においても教科の学びをより確実なものとするために活用してほしい。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年10月1日号掲載