5月31日、公社・日本理科教育振興協会(以下、理振)は第47回定時総会を開催し、大久保昇会長は今年度の事業計画を報告した。理振では今年4~5月に理科教育設備整備事業の過去5年間の実施状況について緊急実態調査を実施。26自治体792市町村(5月15日現在)に協力を得た。調査結果について大久保会長は「理科教育設備整備事業を毎年実施しているのは256市町村ある一方で、240市町村は5年間実施していない。政令指定都市間でも1校あたりの予算額が150万円から9万円と差が大きい。学校環境整備は各自治体が教育総合会議で検討すべきテーマ。学校長寿命化改修の補助金は、新学習指導要領の実施の準備に伴うものも補助対象となり、理科教材整備にも活用できる。今年度は教育総合会議参加者である首長、教育長、議員、議会事務局にも積極的に『理科の授業は理科室で』をミッションに理科教育の整備充実を後押していく」と述べた。
本年も都道府県との共同開催による「理科教育設備整備予算・台帳説明会」を実施する予定で、現在、島根県、北海道岩見沢地区で開催を決定。引き続き各自治体からの問合せを受け付けている。個別説明会は東京、大阪、福岡、札幌などで開催。さらに5~7月にかけて、全国の小中高等学校を対象に理科予算及び理科設備品の保有状況について調査。9月頃には全国私立小中高等学校を対象に理科教育設備学校施設設備整備費等補助金事業に関する調査も行う。
理振総会で国立研究開発法人理化学研究所(理研)の松本紘理事長は「科学と研究~未来社会はどうあるべきか」をテーマに講演した。
仙台、筑波、和光、東京、横浜、名古屋、播磨、神戸、大阪に拠点を持つ「理研」の1980~2015年までの科学研究論文発表数は4万1104件。そのうち他機関に論文が引用されたのは2・8%と日本におけるトップの成果を誇る。
今後必要な研究者について「幅広い教養と社会への関心やつながりを持つ人材が必要。幅広い教養や社会への関心がなければビジョンを描くことができず、ビジョンがなければイノベーションは起こらない。多くの研究成果と夢を見る人が出合うことでイノベーションが実現する。今は学問が多様化しすぎ、『自分の研究以外は何も知らない』人材育成に進みすぎている。今後は先端の枝葉ではなく幹を理解できる、文学者や哲学者の発想ももつ科学者が求められる。社会へのつながりを考えた研究を行うことで科学は社会から信頼される存在になる」
理研は大学学部生から受け入れが可能だ。基礎科学特別研究員、理研白眉研究TLなどのポジションを用意。研究予算は1人1億円と研究員としては破格のポジションだ。松本氏は「現状、各大学ではポスドク(博士号を取得した非常勤職員)時代が長い。ポスドク時代が長いと自分で考える力が育ちにくい。理研では早期から研究できる体制を準備している」と語る。現在、「研究には従事せず、これから世の中に起こるシナリオを100本描く」人材=イノベーションデザイナーを育成中だ。インターンシップも実施。計算科学研究センター(兵庫県神戸市)では国内在住の院生を対象に将来のHPC(高性能計算技術)及び計算科学を担う人材育成事業として、研究チームでのインターンシッププログラムを用意。使用言語は英語。生命機能科学研究センター(同)では国内の大学生を対象に研究室滞在型のインターンシップを用意しているほか、高校教員研修や高校生のための体験講座なども実施。「理研は研究成果を通じて社会的課題解決に貢献する」と語った。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年7月9日号掲載