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教育ICT

「統合型校務支援システムの都道府県導入」小中全264校の帳票を分析 全市町が納得する仕組みに<福井県教育委員会>

2018年5月7日
教育ITソリューションEXPO特集

出退勤管理も校務支援システムで
全国初 1年未満で帳票分析・統一・システム構築

学校振興課学校施設グループ 豊岡隼企画主査

学校振興課学校施設グループ 豊岡隼企画主査

文部科学省は、働き方改革や教育の質向上に資する仕組みとして統合型校務支援システムの構築を求めている。福井県教育委員会では、県立学校(高等学校39校)及び17市町立小中学校(264校)に統合型校務支援システムを導入するため、平成29年4月に「福井県立学校等情報ネットワークおよび校務支援システム調達」を公示。他市町に先駆けて今年度4月からおおい町立小中学校6校で統合型校務支援システムの運用が始まっている。短期間で県内の小中学校に全県統一の統合型校務支援システムを構築した手法について福井県教育庁学校振興課・学校施設グループの豊岡隼企画主査に聞いた。

教育長判断で小中高に導入

福井県では平成28年度、教員の負担軽減に向けて、全教職員を対象に9月の出退勤時刻を調査。教員の勤務時間が長く、長時間勤務の実態が明らかとなった。

様々な施策を検討した中の1つが「統合型校務支援システムの導入」であった。

文部科学省が平成27年度に「学校現場における業務改善のためのガイドライン~子供と向き合う時間の確保を目指して~」を公表し、28年度には「学校現場における業務の適正化に向けて」を通知して、国も強力に校務の効率化を推奨したことや、他県の教育情報流出事件を受け、県では慎重に検討を重ねてきた。生徒情報の一元管理を県主導で進めて情報セキュリティを担保することや、校務の効率化による教職員の負担軽減を図ることについて合意。教育長判断で、システム構築・導入の際には県立学校のみではなく県内の全小中学校も合わせて実施する方針が次のように決まった。

▼データセンターに県立学校及び公立小中学校のシステムを構築して県立学校及び17市町立小中学校に統合型校務支援システムを県負担で提供。市町は運用・保守費を負担する。
▼県立学校ネットワークと合わせて統合型校務支援システムを整備。各学校とデータセンターをつなぐネットワークは、インターネットと切り離した安全な回線とする。

1年未満でシステムを構築

システムの選定にあたっては、平成28年度に方針を決定、計画を策定して平成29年度に各事業者からプロポーザル提案を受け、導入業者を決定した。提案事業者が2社しかなかったことについて豊岡氏は、「もっとたくさんの提案があると思っていた。調達仕様には、全小中学校の帳票の統一化を図り1年以内にシステムを構築すること、セキュリティを担保した仕組みとすることなどを細かく要求した。内容には、当時どの自治体も実現していない仕組みも盛り込まれており、提案できる事業者は限られたようだ」と話す。

小中学校の統合型校務支援システムは「EDUCOMマネージャーC4th」(株式会社EDUCOM、以下「C4th」)、県立学校は「賢者」(アルプ株式会社)に決まった。

当初は小中高同じシステムを整備することで、教職員の負担軽減が図れることをイメージしていたが、小中学校と高校の間でデータの連携をする想定がほとんどないことや、無理に同じシステムを使うより、それぞれに特化したシステムで確実に活用できるシステムを期待した選定とした。

統合型校務支援システムを都道府県教育委員会が構築・導入して管理下の市町村教育委員会に提供するという仕組みには、北海道教育委員会の先例があるが、全小中学校の帳票をゼロベースで見直して統合、それを1年未満でシステム構築したという例は福井県が初であるという。

検討委員会を組織し円滑に合意形成

福井県教育委員会の取組には、これまでにない特徴がいくつかある。

まず、全市町の合意を図りながら、丁寧に仕組みを構築した点だ。

都道府県主導による統合型校務支援システムの小中学校への導入は、取組が始まったばかりで、成功事例は多くはない。成功に至らない理由の多くは「高校向けのシステムをそのまま小中学校に導入しようとしたこと」にあると考え、小中学校向けの仕組み構築に向けて、帳票等や運用ルールの統一図るために、3つの検討委員会「検討会議」「検討委員会WG」「市町検討委員会」を組織した。

まずは県教育委員会と事業者から成る「検討会議」で素案を作成し、それを「検討委員会WG」に諮る。「検討委員会WG」は、福井県内の有識者会議だ。県内で既に先行して校務支援システムを導入している市町の管理職も参加して意見を交え、素案を検討し、合意を得たうえで、全市町の代表者で構成される「市町検討委員会」で合意を得ることが、円滑な合意形成につながった。

全校の帳票を収集全項目分析・統一

昨年度は、検討会議を20回、検討委員会WGを8回、市町検討委員会を4回程度実施。そこで最も時間をかけたのが、帳票の統一とそのための仕様検討だ。

17市町小中264校の通知表、指導要録、学校日誌等あらゆる帳票を収集し、全項目を洗い出して共通項目を分類・統合した案を作成した。

例えば出席簿は、地域によって男女別であったり男女混合であったりする。学校日誌は、校長印の有無、積雪量や警報情報の記入など地域によって記載事項にばらつきがある。

各地域に特化した項目については汎用性のある備考欄で対応するなど1つひとつの項目について検討した。

通知表カタログやガイドブックを作成

通知表は30程度のレイアウトからなる「通知表カタログ」を作成して提案。各校がレイアウトを選べるにようにし、さらに、必要に応じて学校でも修正できるようにした。円滑な運用のため、外字は全県統一した仕組みを入れることとした。

市町教育委員会向けに「導入ガイドブック」も作成。利用が必須の機能と利用が任意の機能の選択、指導要録の印刷の有無、利用者の権限設定など、運用の詳細は市町で決定する方針としたため、各教育委員会には「最初に何に着手すればよいのか」を明確に案内した。

学校長向けのマニュアルも作成。円滑な運用のために学校長として何から着手すべきかを各校に徹底できるようにした。これら運用ルールの作成については、事業者が既に他の都道府県で統合型校務支援システムを導入・運用している実績から、比較的短期間で素案を提案できたという。

出退勤管理もシステム内で

福井県では、出退勤管理の仕組みも統合型校務支援システム上で提供する。出退勤時に共有PCのカードリーダーに各人のICカードをかざすことで、出退勤時刻が「C4th」上に記録されるという仕組みで、ここ1年で急速に注目が集まっている機能だ。

県では学校業務の改善を重点目標としており、各市町教育委員会を通して教職員の勤務実態の把握に努めている。校務支援システムにICカード機能を付加することで、これまでの自己申告によるデータに比べ、客観的なデータを得られると考えて導入した。

小中学校の導入を加速する支援を

4月から稼働するのはおおい町6校で、その成果を周知・さらに検証して見直していく考えだ。

県では導入期限を平成32年度までとして、各市町で段階的に運用を開始してもらうことにしている。なお3市町で既に導入・運用済の既存の校務支援システムについては、更新の際に県内統一した仕組みを導入することとしているが、他市町の導入・稼働をより早期に開始できるよう、他部局と連携しながら予算化の支援にも着手する。

「まずは機動力のある比較的小規模な市町から訴求を始め、理解と予算化を進めていきたい」と豊岡企画主査は語った。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年5月7日号掲載

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