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教育ICT

“渋谷区モデル”でセキュリティ対策

2018年3月5日
特集:教育情報セキュリティ

教員・児童生徒用LTE端末8700台を管理

渋谷区教育委員会 教育振興部 鴨志田暁弘部長

渋谷区教育委員会 教育振興部 鴨志田暁弘部長

文部科学省「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」が平成29年10月に公表された。それに先駆け、渋谷区教育委員会では校務用クラウド基盤と学習用クラウド基盤を分離して、情報セキュリティ対策と円滑なICT活用・運用ができるような仕組みを構築、平成29年9月から運用を開始している。児童生徒用タブレット端末約8000台、教員用タブレット端末700台、全普通教室に大型提示装置整備などの大規模整備だ。渋谷区教育委員会教育振興部の鴨志田暁弘部長と加藤聖記副参事に、本システム構築の内容と活用の実際、今後の計画を聞いた。

渋谷区は第2期教育振興基本計画の推進を目的に、平成29年度、大規模な教育環境の整備・更新に着手。パブリッククラウドとプライベートクラウドを使い分け、LTE回線を活用するICT基盤を構築。区立小中学校(小学校18校、中学校8校)の児童生徒用約8000台、教員用約700台のタブレット端末を整備し、児童生徒用端末は自宅に持ち帰って活用している。

教育クラウドをパブリックとプライベートで使い分ける

■教員用端末は授業・校務兼用

教員用タブレット端末は、授業・校務兼用という運用だ。

「校務用クラウド基盤」をプライベートクラウドで、「学習用クラウド基盤」をパブリッククラウドで構築して物理的に分離。「校務用クラウド基盤」はデータセンターに設置。専用LTE回線により、一般のインターネット経由せずに接続できる完全閉域網の使用とプライベートクラウドで構築した。

ここに、校務用ファイルサーバを構築。校務支援システム及びこの領域で仕事をしている教員用端末は、外部メールの送受信操作やUSBメモリによる書き込みなどシステムの外へは一切データが出せないようにした。

教員端末にも情報を保存することはできないため、自宅など校外でも校務支援システムにアクセスできるテレワークを可能とした。

校務支援システム領域からデータを外部へ出せないシステムになっており、外部メールに校務支援システム領域内のデータを添付することはできない。

なお外部メールは、通常のメールサービスサーバーを使用しているが、メールフィルター経由でリンクの無効化、実行ファイルの添付を削除する対策を行っている。

「学習用クラウド基盤」は、クラウドサービスを利用する「パブリッククラウド」を利用。ここにはコンテンツ配信システムや協働学習支援ツール、デジタルコンテンツ、学習用ファイルサーバを構築。学習用ファイルサーバには児童生徒の作品や教員自作の教材などを格納。他の学校と共有する設定も可能だ。

学習系データはクラウド上にIDで保存、個人情報ではない形で管理。万が一の情報漏えいに備えている。

■資産管理システムで活用状況を把握・管理

「学習用クラウド基盤」には、資産管理システムも導入。これにより教育委員会は、教員用端末・児童生徒用端末を管理してセキュリティを担保している。

資産管理システムでは、すべての端末が何時間起動しており、どのアプリを多く活用しているのか、日常的にどんなWebにアクセスしているのかなど様々なユーザ行動を把握できる。データセンターでは、外部から不審なアクセスが見られた際には、アラートでメール通知。端末の位置をマップ上で確認できる機能は、端末紛失時に活用する予定だ。

現在、定期的に見ているのが「稼働状況」だ。情報端末を1人1台入れたことについて「本当に使っているのか」と聞かれた際に「使っている時間」「内容」などをすぐにデータで開示できる。

データによると、導入当初から活用が多いのが、コンテンツ配信システムを使った「指導者用デジタル教科書」だ。この配信システムを採用したメリットとして、教員用タブレットへのインストールが不要なため、ディスクの圧迫を防ぐとともに、バージョンアップ費用の削減にも寄与する。

小学校中~高学年では、協働学習支援ツールの活用度も高い。中学校では、デジタルドリル教材の活用が高いという。

■認証システムで安全を図る

各端末の認証は、二要素認証を実装。

児童生徒は顔認証とパスワード、教員はフェリカカードとパスワードによる認証で、利便性を考えてシングルサインオンの仕組みを採用した。

次年度からは新入生のみの登録であるが、導入時8000台の児童生徒用端末の登録には、ICT支援員の一時的な増員などで対応した。

■ポリシーは繰り返し見直し

渋谷区の教育情報セキュリティガイドラインは、平成28年12月に策定。29年9月のICT環境基盤構築に備えた。

現在は文部科学省「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」と照らし合わせながら更新作業を進めている最中だ。

■データ連携を国の事業で検証

総務省・スマートスクール・プラットフォーム実証事業では、学習系、校務系サーバ間のデータ連携を検証している。

渋谷区では、分離すべき2つのネットワーク間で安全にデータをやりとりできる専用ネットワークを構築。これはデータを暗号化して一時的に集約、受け渡す機能を持つもので、集計分析システムで結合してデータ分析。受け渡し後のデータは削除されるという仕組みだ。

渋谷区では現在、ログを取得できる環境から、人の手では処理しきれない大量のデータが入手できるようになった。この中から、教員が必要な情報、学校長が必要な情報、業務改善や学力向上に役立つ情報を、手間なくどのように取得するのか。それを検証するものが、文部科学省「次世代学校支援モデル構築事業」だ。

2事業は連携しており、渋谷区では広尾小学校、代々木山谷小学校、上原中学校が参画している。

1人1台端末整備効果は予想以上

渋谷区立代々木山谷小学校の4年社会ではドローンをプログラミング

渋谷区立代々木山谷小学校の4年社会ではドローンをプログラミング

1人1台端末活用の効果は予想以上である、という。
教員も児童生徒もリテラシーは日ごとに向上。プログラミング教育の成果も出てきており、活用時間も伸びている。

「ICTは道具」であると言われるが、「グループに1本鉛筆」があるだけでは効率的な学習は展開できない。スキル向上が必要なのであれば、それに見合う整備が必要であるという。子供が積極的に使う姿を見れば、教員も授業改善に積極的になっていく。

故障についても、予想外に報告がない。児童生徒に1人1台配備としたことで、自分の持ち物という意識が生まれ、大事に扱っているようで、故障・破損の報告は1・8%程度と、想定をはるかに下回っている。

2月には、渋谷区のICT教育推進校である代々木山谷小学校で授業を公開。当日の授業見学者が400名以上いる中、児童用情報端末350台がインターネットに一斉につながったが、通信問題は全く生じなかった。

4年生の社会では、ドローンをプログラミング。5年生の国語ではScratchによるプログラミングを取り入れており、いずれも楽しそうに試行錯誤している児童の姿が見られた。「失敗が楽しい学習」という点がプログラミング学習の良い点の1つである。

■教員研修は重要なポイント

円滑な活用や運用のためには研修が重要だ。

渋谷区のICT支援員は、1校あたり月8回の割合で巡回している。

区では、ICT支援員が各校で研修を実施。それを円滑に進めるため、学校の実情に合わせた研修ができるような内容の研修を提供している。

各校では、時期やニーズに合わせた研修が展開されている。放課後クラブの指導員対象の研修も実施。特別支援教室専門のICT支援員も配置している。

今後の課題は、「一歩進んだ情報モラル教育」であると考えている。写真1枚でも扱い方や記録の方法によって個人データになるという理解を促す必要がある。

渋谷区教育委員会では「3年リース」で運用。成果が上がっていることから、3年後も予算を確保できるようなエビデンスを確実に提供できるよう準備を進める考えだ。

なお渋谷区では、平成30年度の新庁舎移転に合わせて現在システムを見直している最中である。

教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2018年3月5日号掲載

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