九州大学は今年2月、「ラーニングアナリティクスセンター」を設置した。同センターは、教育に関わるビッグデータを収集・分析し、教育や学習のさらなる向上をサポートしている。
同大学では2013年4月から、学生が自分でノートPCを講義に持ち込むPC必携化(BYOD:Bring Your Own Device)を推進。
翌14年4月からは「アクティブラーナー」(未知の問題や状況にも果敢に挑戦するスピリットと行動力を備えた人)の育成を目標に掲げ、全学1年生を対象に「基幹教育」(新たな知や技能を創出し、未知の問題も解決していく上での幹となる「ものの見方・考え方・学び方」を学ぶ教育)を行っている。
九州大学基幹教育院ラーニングアナリティクスセンター長 緒方広明氏は「アクティブラーナーとして、生涯にわたり自律的に学ぶ姿勢を身に付ける過程においては、『何を学習したか』だけではなく、『いかに学習したか』が重視されます」と話す。
そのためには、学習活動のプロセスをデータとして記録し分析することで、教育・学習の改善を行っていくことが大事になる。その役割を担っているのが、今回設置されたラーニングアナリティクスセンターだ。
ラーニングアナリティクスセンターは、次の4部門を設置し業務を推進している。
(1)研究推進部門=学内の学習ログや教育ビッグデータの分析・可視化による教育・学習支援の研究
(2)データ管理=学内の学習ログ・教育ログデータを統合管理する大規模データベースの研究開発
(3)企画・評価部門=データ分析による教員・学生・PTAとの相談による教育・学習改善の提案
(4)システム運営サポート部門=M2B(みつば)学習支援システムの利用促進とサポート
M2B(みつば)学習支援システムとは、eラーニングシステム「moodle(ムードル)」、日々の学習や教育におけるエビデンスを蓄積するeポートフォリオシステム「mahara」(いずれもオープンソースソフトウェア)、そして講義で使用する教材を電子化して配信するシステム「BookLooper」(京セラ丸善システムインテグレーションが提供)の3システムをまとめた学習環境のことだ。
ラーニングアナリティクスセンターは、M2Bシステムの利用促進に関する講演会やシンポジウムなども行っており、活用を推進している。
ラーニングアナリティクスセンターは、M2B学習支援システムから得られる情報のほか、シラバスや成績などの学務情報を統合してデータを分析している。
学生や教員は、その分析結果を活用することで、予習の達成度や資料の閲覧パターンなどを知ることができるようになった。
また、教員は授業中、学生の教材閲覧状況を把握しながら、リアルタイムに講義の進行を変えることも可能になった。
「これまで授業の設計や教材の改善は、教員個人の経験に依存して行われることがほとんどでした。M2Bシステムを活用することで、教育・学習のプロセスで蓄積されたデータやエビデンスをもとに分析を行い、授業や学習方法の改善に役立てることができるようになりました」(緒方氏)。
今後は、学内でのシステム利用をより拡大していくとともに、取組の効果を検証し、学生の教育・学習を長期的にサポートしていくのが目標だ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2016年6月6日号掲載