東京理科大学は、130年以上の歴史を持つ理科系総合大学だ。これまでも各時代において、当時の最先端の教育・研究環境の実現に取り組んできた。現在は「日本の理科大から、世界の理科大へ。」という目標の達成に向け、より質の高い教育と研究を世界レベルで行えるよう力を注いでいる。
今年ノーベル生理学・医学賞を受賞した大村智氏(北里大学特別栄誉教授)は、大学院の卒業生であり、同大学では初、日本の私立大学卒業生としても初のノーベル生理学・医学賞受賞者だ。
ICTによる教育・研究環境の充実には注力し、教育においては「VLE(Virtual Learning Environment)」、研究ではVRE(Virtual Research Environment)」というICTシステムを今年春から稼働させ、成果を挙げている。
VLEで特徴的な機能は2点あり、一つは「学修ポートフォリオ」機能だ。学生が履修を申告する際、4年間に達成すべき、どのような能力をどの授業が担うのかが、科目系統図とともに把握できる。学生は半期ごとに自分の学修成果を振り返り、自分自身による主観評価と、実際に評価された成績ベースの客観評価を、レーダーチャートで比較することができる。これをもとに次の目標を設定し、新たなPDCA(Plan‐Do‐Check‐Act)サイクルを回していく。学生にとっては、自分の成長過程を多角的に見ることができる。
2点目は、学生のアクティブラーニングを促す機能の充実だ。授業ごとにSNSのグループ機能やチャットを利用できる。また、授業中、教員が発した質問に学生が回答し、集計結果を共有できる「eクリッカー」機能を装備。論文やレポートをオンラインで共有しながら、教員と学生がディスカッションできる「ライブクラスルーム」などの機能もある。
学修ポートフォリオやeクリッカーなどの機能は教員にとっても有益だ。学生の習熟度や理解度が確認でき、次の授業やセメスターに反映させることができるからだ。
学生に課した課題の収集・管理も効率化。授業の準備や研究により力を注ぐことができるようにもなった。
一方、VREにおいては、独自のSNSを構築し、教員同士で他教員の研究内容や論文などが見られるようにしている。
こうしたシステムを構築した背景には、国際的に最先端と言われる研究の多くが、複数分野にまたがるクロスディシプリン(学際的)なものであることが関係している。
東京理科大学は、理系総合大学として理学、工学、薬学、経営学といった研究領域を持ちながらも、キャンパスが複数に分かれており、異分野の教員とのコミュニケーションが生まれにくいという問題点があった。
そこでVREの稼働により、学部や学科を越えて、興味や関心を共有する教員同士がグループを形成。
チャット形式でのコミュニケーション、セキュリティーの高いストレージを使用したファイル交換などをすることが可能となった。
国際的なクロスディシプリンが進む中、研究を始める前の段階で、異分野教員同士のコミュニケーションを補えるツールとして、今後、ますます期待が寄せられている。
今後もICTを最大限に活用し、VLEとVREを組み合わせて、教育力と研究力を一層伸ばしていく考えだ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2015年11月2日号掲載