大阪教育大学は、教育実習中の学生への指導を、インターネットを使い遠隔地から行うシステム「スマートフォリオ」を開発し、同大学附属小学校において活用実験を行った。システム開発に携わった大阪教育大学情報処理センター尾崎拓郎氏に取材した。
「教育実習には、教育実習生、実習校の担当教員、そして大学でその学生の指導に従事している大学教員と大きく分けて3つの立場が存在しています。教育実習が行われている間、大学教員は実習校の担当教員と情報交換を密にしなければなりませんが、実際は実習の終盤に実施する研究授業を参観するのがいろいろな制約から精一杯でした。そこで、SNSの仕組みを取り入れて、情報交換できるようにしたのが今回のシステムです」と、尾崎氏はシステム開発に取り組んだ経緯を話す。
システムは、オープンソース「OpenPNE(オープンピーネ)」をベースに構築。
機能には「日記」「メッセージ」「コミュニティ作成」のほか、実習簿や学習指導案を閲覧できるように「ファイルアップロード」機能を備える。
また、授業の動画のアップロードも可能。動画についてのコメントも入力できる。
「コメント機能により、大学教員は実習先に出向くことなく、実習生に指導できるようになりました」(尾崎氏)
こうした機能は、フェイスブックなどの汎用SNSで、コミュニティを作成し運用することでも可能だ。しかし、尾崎氏はそのような方法は取らなかった。その理由をこう話す。
「ファイルをアップロードし共有するはフェイスブックなどでも対応できたのかもしれませんが、実習授業の動画をアップロードするとなると、教師の発言内容や児童生徒の反応を撮影するわけですから、保護者の理解が絶対的に必要になってきます」
そこで、データは大学内のサーバーに格納し、パブリッククラウドには置かないように設計した。さらに、ユーザーIDの発行に関しては、原則、学内関係者のユーザーIDを利用するようにし、不正アクセスを防止している。このような措置を講ずることで保護者の理解を求めた。
また、タブレット端末で撮影した動画をすぐにアップロードできるようにするため、端末に標準搭載されているカメラアプリを使うのではなく、専用のカメラアプリ「スマトレ・コーダー」を開発し、システムに直接アップロードできる仕組みにして、システムへのアクセスを容易にした。
2014年9月、同大学附属小学校の教育実習において、今回のシステムを活用した実証実験を行った。
初期段階での実証実験だったため、撮影や動画アップロードなどの作業は、教育実習生ではなく学生スタッフが行った。
実習生からは「授業中は緊張していて、自分の発言内容を忘れていたが、動画を見ることで振り返りがしやすかった」「コメント機能によって指導を受けるのは、内容が分かりやすくてよい」「自分が思い描いていた動きと違う動きをしていたのに気付いた」といった意見が寄せられた。
尾崎氏は「附属の学校で展開するだけにとどまらず、本学の学生をはじめとする構成員が皆このシステムを気軽に利用できるくらいの水準にまで利便性を高めて、システムを活用するのがスタンダードになることを目指します」と抱負を語っている。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2015年9月7日号掲載