奈良先端科学技術大学院大学は、学部を置かない国立の大学院大学だ。情報科学、バイオサイエンス、物質創成科学の3研究科を持つ。附属図書館は、各研究科の教育・学術研究活動を支援するために設立された。図書の貸出および返却は24時間いつでも利用可能だ。
附属図書館では、必要な学術情報を迅速に利用者へ提供するため、「電子図書館」も構築し、図書、雑誌、論文、授業映像などのデジタルコンテンツを、ネットワークを介して提供している。ここでは、同附属図書館が取り組んでいる「授業映像アーカイブシステム」について紹介しよう。
附属図書館では当初、学術雑誌・書籍・学位論文の電子化を行い利用者に提供してきた。しかし2004年頃から、学術雑誌の出版社が自社で電子化しコンテンツを提供するようになると、附属図書館で行う電子化にあたっての許諾が得にくくなり、雑誌や書籍の電子コンテンツの充実が図りにくくなってきたという。
そこで、大学の電子図書館ならではの新サービスとして、授業の映像と授業中にスクリーンに映し出されるスライド資料を電子化・アーカイブ化し、インターネットを通じ閲覧できるサービスを提供することにした。
また、授業は学生と担当教員のみの閉鎖的な空間で行われており、第三者の目が届きにくい。授業映像のアーカイブシステムを導入し授業の様子を公開することによって、授業の「質」に対する教員の意識を高める目的もあった。
授業の録画は、自動撮影システムにスケジュールを登録することで、教室に設置したカメラが自動的に撮影し記録を行う。その後、記録された映像を図書館員が編集し、公開している。授業に用いられるスライドは、教員が利用するPCからプロジェクタに送られる信号を記録し自動的に収録する。授業終了後、授業映像とスライド映像が自動的に同期され、ひとつの授業映像コンテンツとして記録される。
また、スライド映像からスライドタイトルと本文を文字認識することで、電子図書館システムの全文検索機能にも対応させている。アーカイブの授業映像のうち、約1割は学外者でも閲覧が可能になっている。
授業アーカイブシステムへのアクセス数は、ここ5年間の年平均で約3万5000件。授業の開講数が多い4月から12月にかけて、アクセスが多くなる傾向にある。
「学生は、授業アーカイブシステムを授業の復習のために利用することが多いようです。また、入学希望者が実際の授業内容を見て、受験するかどうかを決めるために利用することもあると思います。教員にとっては、授業アーカイブシステムによって授業の様子が学内外に公開されますので、それを意識することで、授業の内容を向上させる意欲が高まるのではないかと考えています」(奈良先端科学技術大学院大学教育研究支援部企画総務課小西健氏)
今後は、授業映像と電子化された書籍・論文や、それらに付けられたメモ・付せんなどの資料とを相互に連携させ、電子化資料の本文内容から授業映像を素早く見られるシステムを構築していく意向だ。
教育家庭新聞 教育マルチメディア号 2014年11月3日号掲載