12月6日、東京・KFCホールで第45回教育委員会対象セミナーを開催した。6人の講師によって行われた講演の内容を紹介する。次回の第46回教育委員会対象セミナーは、2月2日に福岡・パピヨン24ガスホールで開催する。
新地町教育委員会教育総務課・伊藤寛指導主事 |
福島県新地町は平成27年度にICT活用グランドデザインを策定し、29年度まで継続して取り組んでいる。伊藤氏は同町の授業事例や新たな実証事業の取組を報告した。
グランドデザインの「ICTを活用した学び」には3つの要素があり、「個々に応じた学び」は学ぶ内容と方法の最適化、「主体的・協働的な学び」はアクティブ・ラーニングに必要な土台、例えば言語・数・情報スキル、論理的・批判的思考力、メタ認知などを活用して思考の活性化を図ること、「探求思考の学び」は課題に対し、どんな見通しを立てどんな手順で解決するのかを基軸としながら、適宜な自己評価に基づいて学びを継続することである。
家庭では課題を与えた授業の導入部分を学習し、教室では家庭学習を礎にした話し合いを充実させる反転授業を実践している。教員は事前のデジタルドリルや課題学習で、子供たちがどのレベルにいるのかを判断することができる。また、文章化された子供たちの考えも授業前に把握できるので、レベルに合わせた教え方ができる利点がある。
話し合い活動の必要性という視点からも取組を進めている。教員には単元の中で話し合い活動が必要な部分ではじっくり話し合いさせるように伝えている。この際、様々な意見が出ただけで授業が終わらないように工夫を施すことが大切である。
例えば、算数の授業で様々な解き方が発表された後、教諭が「どの解き方がよかった?」と問いかける。子供たちが珍しい解き方に興味を示した場合には、さらに「本当にそうかな?」と問いかける。最終的には、様々な問題に適応できる解き方に集約させるような話し合い活動を重視している。
別の算数の授業。割引の求め方で、3割引の問題だから0・7をかける。ここで教員は0・7の理由を執拗に聞く。子供たちは解けていても、上手に言葉では説明ができない。その場合は上手に言葉を引き出す「しかけ」が大切である。つまり、ポイントを絞って考えを導き出す問いかけが大切である。
ルーブリック評価も取り入れる。振り返りを重視し、目標に対して自分がどの位置にいるのかを常に確認しながら学習できるようにしている。これにより、子供たちの意欲の向上と思考の深まりが図られる。
中学校理科「天気とその変化」でのS評価は、子供たちの考えが主体となる。Sにステップアップするには天気の予想以外に何ができたらいいか、そのためにはどんな情報が欲しいのか、一歩先への思考の大切さを念頭にした指導で解決への意欲や見通しを持たせるなど、学習の目的を決めさせる授業である。
ICTを活用した学習の展開を図った結果、26年度に全国平均を下回っていた全国学力・学習状況調査の国語A・B、算数A・Bでは29年度は全国平均を上回る結果を示し、学力検査CRTでも上昇している。学力が着実に向上していると判断できる。
教員の校務負担減に向けては統合型校務支援ソフトの導入を図ったことで、情報の効率的な整理により作業時間の短縮が見られた。その分、教員には個々の児童生徒の課題分析の時間や子供たちと関わる時間が増えている。
現在、文部科学省「次世代学校支援モデル構築事業」に取り組んでいる。例えば授業中に消極的な子供には、出席簿や保健室の利用回数データなどと連携することで、いち早く心の問題を察知したり、学習面での支援をしたりすることができる。ICTを活用し、エビデンスに基づいた指導を実現しようという試みが今回の事業取組である。
子供たちの個人データを収集・整理することで、心身の状況や学びの様子を的確に捉え、子供に応じたタイムリーな支援ができる。また教科の指導状況の把握により、教員個々の指導方法の改善を図ることができると考えている。この2点を踏まえ取り組んでいきたい。
【講師】福島県新地町教育委員会教育総務課・伊藤寛指導主事
【第45回教育委員会対象セミナー・東京:2017年12月6日】