11月2日に札幌市内で開催された本セミナーには主に北海道内から約130名の教育関係者が参集した。本セミナー講演内容を抄録する。
東北大学大学院情報科学研究科・堀田龍也教授 |
中央教育審議会の委員として新学習指導要領の改訂に関わった堀田龍也教授は、新学習指導要領の改訂に伴う議論の経緯とそのポイント、その実現に向けた教育環境の準備について講演した。
平成32年度に新学習指導要領が小学校で始まる。準備ができた学校は32年度を待たずして先行して進めていくように、とされている。
改訂の検討に伴い、中教審にはさまざまなデータが上がってきた。例えば2009年のPISAでは、日本の子供の読解力は、平均点は良いが、レベル1以下の割合が高く、散らばりが多い。PISAは社会に出たときに必要な力を調べており、日本にはレベル1すなわち「仕事ができないレベル」の子供の割合が他国に比べて高い、ということだ。
学力学習状況調査によると、日本の子供は、国語や算数の平均点は高いものの、格差が大きい。理科はできるけど好きではない、算数もできるが社会で活用できるとは思っていない--すなわち「自立した学習者になっていない」、教員に教えてもらわないとできない子供たちであるという分析だ。
不登校率も増えている。要保護、準要保護の割合が増え、相対的貧困率は小学校において6人に1人の割合だ。
中教審ではこれらが深刻な課題として提示された。トップ人材の育成はもちろん必要だが、まずは格差を広げないためにも、最低限社会生活を営むために困らないスキルをすべての児童生徒が身に付けることが最重要課題とされた。
新学習指導要領では、各教科の基盤として「言語能力、情報活用能力、問題発見・解決能力」を取り上げた。問題発見・解決能力とは社会のリアルな課題を見つけ、それを解決していこうとする力であり、どんな職業に就いても対応できる力である。「情報活用能力」には、ICTを適切に活用できる力も含んでいる。様々な情報を、インターネットを使って収集し、判断、取捨選択したり再構成したり新しい見解を提示したりできるようになるには、数多くの試行錯誤が必要だ。「教員に教わるだけ」では身につかない力といえる。
基礎・基本は効率的に教え、児童生徒が試行錯誤する時間、さまざまな学びに出会う時間を生み出し、様々な学びに出会うことができる学習環境をどう整えるか。そのためには、これまでとまったく同じ教育環境では難しい。ここにICT環境の重要性がある。
現在の小中学生は、2020年から始まる新しい大学入試を受けることになる。そんな時代の教育の情報化を実現できる環境整備について、真剣に考える必要がある。
30年度から、第3期の教育振興基本計画が始まる。すべての校種で大型提示装置を普通教室と特別教室に常設し、小学校と特別支援学校では、実物投影機を普通教室と特別教室に常設することが求められている。教員用PCは、授業を担任する教員すべてに配備、学習者用PCは、3クラスに1クラス分程度の配備が想定され、財源の調整に入っている。
教科書やノートを大きく提示して見せることは、基礎・基本の理解や定着にとって有効だ。授業の流れを残して振り返るためには、板書の技術がこれまで以上に重要になる。
ICT活用に成功している学校は、必ず何らかの訓練や地道な努力による安定した学習規律が見られる。
ノートや掲示物、作品などを見れば日頃の努力の様子がわかる。これらの努力に支えられて身に付けた知識や技能があるからこそ、問題解決につながる思考力や表現力を育む際に発揮されることになる。情報端末を大量に導入しただけではこのような授業は実現しない。その結果、ICTが活用されないことになってしまう。
ICT環境の整備には段階がある。文科省が示したICT環境整備のステップで見ると、多くの学校が大型提示装置、グループ1台の可動式PC、無線LAN整備というステージ2の段階だろう。新学習指導要領はステージ3の整備を想定して学習内容が検討されている。佐賀県、荒川区、渋谷区など既にステージ4まで実現している自治体もある。
ICT環境は通常、段階的に整備されていく。
段階的に整備を進めるために措置されているものが、地方交付税交付金だ。しかしこの予算の使い道は自治体が決めるため、新学習指導要領の理解が乏しい自治体は、求められるICT環境を整備していない。環境がないと新学習指導要領の内容の実現は困難だ。児童生徒にも教員にも負担がかかり、学力格差の再生産が生じることになる、という点を理解して環境整備や授業実践に取り組んでほしい。
【講師】東北大学大学院情報科学研究科・堀田龍也教授
【第44回教育委員会対象セミナー・札幌:2017年11月2日】