新地町教育委員会では平成22年度から電子黒板やデジタル教科書などICT環境整備に積極的に取り組んでおり、尚英中学校では現在6教科(国語、社会、数学、理科、英語、音楽)の指導者用デジタル教科書を日常的に活用している。さらに文部科学省「先導的な教育体制構築事業」総務省「先導的教育システム実証事業」指定校として、新たな学びの推進に向け、クラウドと学習者用端末を活用した持ち帰り学習やスカイプによるオンライン英会話などにも着手。毎年開催される新地町ICT活用発表会の開催を控えた11月8日、3年生理科の授業を取材した。授業者は寺島克彦教諭。
この日の授業の目的は「慣性の法則」について、実験を通して自分の言葉で説明できるようになること。導入で寺島教諭は「世界の車窓から」(テレビ朝日)の1シーンを皆で視聴。「電車が急ブレーキをかけたらどうなるか」と生徒に問いかけ、電子黒板に、教科書のイラストとテキストの一部を隠した画面を提示した。これはデジタル教科書「新編新しい科学」(東京書籍)のMY教科書エディタで作成したもので、これにより、今日のめあて「慣性の法則を説明してみよう」を全体で共有する。
生徒は、電車で急ブレーキがかかると人が「つんのめる」理由について、まず個人で考えてからグループで話し合い、その内容をグループにつき1台の学習者用端末に記入して全体に提示。各グループの話し合った内容を発表した。
寺島教諭は、様々な演示実験やデジタル教科書の動画資料を活用して授業を展開。「ラジコンカーが障害物にぶつかると、上に載ったミニカーはどうなるのか?」
ラジコンカーの上にミニカーを載せ、実験の様子を学習者用端末のカメラ機能で撮影。皆で、止まる前のラジコンカーと同じ速さで前に進もうとするミニカーの動きを確認する。
デジタル教科書の実験動画も提示。
摩擦の力がほとんどかからないドライアイスを置いた台車が急に止まると、ドライアイスはどう動くのか――その予想をしてから、動画を視聴。ダルマ落としの実験動画も視聴して、「力が働いていない」ドライアイスやダルマが「動かない」ことを確認した。
では、動く電車の中でボールを真上に投げるとどうなるのか。
「ボールは、投げた場所の真下に落ちる」という予想が多い。
「投げた人の手に戻る」という予想を出した生徒は、そう考えた理由を「走りながらキャッチボールをするとボールが追いかけてくる」と説明。実際に実験をする。
教室全体が、動く台車に座った生徒が投げるボールに注目。生徒がボールを真上に投げると、ボールは、台車と一緒に移動している生徒の手に戻った。教室からは「おぉ」と驚きの声が上がった。
寺島教諭は実験の際に、ストロボ撮影ができるアプリ(北海道立理科教育センター『どう見る君』)も活用。ストロボ撮影をするとボールなどが同じ速さで動いているのか、より早く動いているのかがひと目でわかるものだ。
昨年、同校に赴任した寺島教諭はデジタル教科書について、「本校には提示機器が全教室に常設されていることもあり、毎時間のようにデジタル教科書を活用している。既になくてはならないもの」と語る。その理由として、まず「実験をして考える時間を確保するための時間管理」を挙げた。授業時間内に複数の実験をすることは難しい。実験に時間がかかって考える時間を確保できない場合もある。そこで、実験動画を使って、考える時間や話し合う時間などを確保するという。
授業にメリハリをつけやすくなった点もメリットだ。「最近の生徒は簡単なことでは驚かないが、様々な仕掛けで生徒を驚かせ、興味関心を持たせることに役に立つ。生徒に注目させやすく、説明もポイントを押さえて短時間でできる」
気象や火山、天体など、実際に見ることが難しいものをピンポイントでさっと提示することもできる。活用のポイントについては「ここぞというタイミングで素早く提示できるように、どんな映像やシミュレーションがあるのかを事前に把握して授業の組み立てを考えている。チョークのような感覚で使い慣れるほど授業に幅が出ると感じる。今後は、MY教科書エディタなどの効果的な活用に取り組んでいきたい」と話した。
【2016年12月5日】