(一財)東京顕微鏡院学術顧問の伊藤武氏はカンピロバクターをはじめとする食中毒対策として「春から夏季、特に注意を要する学校給食室の衛生管理」について語った。
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東京顕微鏡院 学術顧問 伊藤武氏
1997年から2022年までの主な微生物による食中毒の発生件数をみると、90年代は腸炎ビブリオやサルモネラによる食中毒が多かったが、2000年からはノロウイルスによる食中毒が多く発生。カンピロバクターによる食中毒は2000年代から目立つようになり2017年以降は最多となっている。新型コロナの影響から食中毒の発生は減少傾向だったが、コロナ禍も落ち着き、改めて注意が必要である。
季節別発生状況を見ると、カンピロバクターは乾燥に弱いため冬場の発生件数は低く、春先から夏にかけて増え9月から10月に流行が拡大する。2020年のカンピロバクターの患者数は901人だが、発症しても病院に行かないケースや病院が中毒として届けないなどのケースもあるため、実際の患者数は、もっと多いと予測される。
カンピロバクターの症状は下痢、下血、腹痛、発熱などサルモネラの症状に類似。ただし感染して数日から1週間後に手や足の力が入りにくくなるギラン・バレー症候群を発症する場合があり、重症だと1か月以上の入院が必要となる。
カンピロバクターは酸素が3~15%程度で増殖し、酸素が全くない環境や逆に酸素が十分にある条件では発育しない特殊な細菌。75度で1分、加熱すると死滅し、サラダなど水分の多い食品では4度の低温条件ならば1週間は生存し、20度以上では早期に死滅する。
患者数が多い原因に100個以下の少量でも発症することが挙げられる。また鶏のカンピロバクター汚染率は極めて高く、ブロイラーの飼育場では成鶏の陽性率は30~100%に上る。
牛・豚・鶏の食肉は中心温度が75度で1分以上加熱するなどの対策が取られている。東京都の小学校での発症例では、ミートローフを給食に出した際、学年により厚みが異なるため加熱にムラが生じ、喫食した720人の児童のうち109人がカンピロバクターを発症。高学年ほど発症率が高かった。中心部まで加熱するには食材の厚さも考慮する必要がある。
食中毒の発生は正しい対策により予防することができる。「過去の食中毒の発生や食品事故を忘れることなく、継続した衛生管理を推進することが重要だ」と締めくくった。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2025年3月17日号掲載