今春発生した、紅麹サプリを中心とした健康被害問題から「食のリスク」について改めて考えた人も多い。(一社)日本食品添加物協会は10月29日都内で、第47回「食品添加物メディアフォーラム」を開催。NPO法人食の安全と安心を科学する会(SFSS)の設立者で理事長の山﨑毅氏を講師に招き、本来の「食のリスク」とは何か専門家の視点を聞いた。演題は「『紅麹を教訓とした食の安全性の見極め方』~科学的視点から『食のリスク』を再考する~」。
SFSSは任意団体を経て2011年にNPO法人として設立。「食の安全と安心の最適化」を目指し、リスクコミュニケーション(以下、リスコミ)の推進に取り組んでいる。
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“食のリスクコミュニケーション”とは「リスク分析の全過程において、リスク評価者、リスク管理者、消費者、事業者、研究者、その他の関係者の間で、情報および意見を相互に交換すること。リスク評価の結果およびリスク管理の決定事項の説明も含む」と厚生労働省は定義している。
そこでリスク評価の基本となるのは、「『ハザード』と『リスク』は異なる概念だと知る」こと。「ハザード」とは、あくまでリスクをもたらす可能性という意味である。
食品に関しては、人の健康に影響を及ぼす実際のリスクは危害要因(ハザード)の特性だけで決まるのではなく、体内の摂取(ばく露)量でリスクの大きさは変わる。消費者の不安を煽る記事や情報発信は、ハザードのことのみを取り上げている場合が多い。
小林製薬「紅麹」の成分を含むサプリメントを接種した人に健康被害が生じる問題。「健康食品なので体によいはず」「製薬会社のサプリなら安心」といった‘ガラスの安心’をユーザーは抱いていた。薬が必要な人が服薬せずに自己判断で機能性表示食品に頼ると、投薬の機会損失によって命にかかわるリスクが生じる。消費者はリテラシーを持ち、事業者は安全性のさらなる確保に取り組むことが求められる。
食品添加物に関しては、「リスクのトレードオフ」という原理を覚えておきたい。小さいリスクを避けようとして大きいリスクに陥るというケースもある。例えば「残留農薬の健康リスクを恐れて有機野菜のカビ毒で食中毒」などだ。食品表示の「無添加」「保存料不使用」などの”ガラスの安心”に騙されないよう注意が必要だ。消費者庁では『食品添加物の不使用表示に関するガイドライン』も発出している。
食品添加物は食品衛生法に基づき、成分規格や使用基準が設定されており、毎日食べてもリスクが少ない。なお食品添加物で着色料の「ベニコウジ色素」は、安全性試験を実施済みであり、小林製薬の紅麹サプリとは製造方法も異なるため、健康被害の原因となった「プベルル酸」が濃縮されることはない。
講演テーマに関連しては、山﨑氏と元毎日新聞社記者で食品安全情報ネットワーク共同代表の小島正美氏による著書『最強の専門家13人が解き明かす真実 食の安全の落とし穴』(女子栄養大学出版部、1540円)でも詳しい。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2024年11月18日号掲載