学校安全の領域で「生活安全」に包括される食中毒や感染症の対策は、これから迎える秋冬期の重要な課題の一つ。先ごろ開催されたFOOD展のセミナーで「学校給食による食中毒の動向」と題した講演をした(一財)東京顕微鏡院学術顧問・伊藤武氏は、特に冬期に増えるノロウイルスの食中毒の対策は「人から人」の感染対策が重要だと指摘した。
学校給食調理における衛生管理の基本となる文科省「学校給食衛生管理の基準」は1997年、HACCPの考え方を取り入れて作成された。前年、O157による全国的な食中毒の発生と学校給食でも7件6人死亡する事態が背景にある。同基準制作に携わり、食中毒を発生した全国の給食調理場を視察した伊藤氏は「同基準が制定されて以降20年以上になるが、基準を守ったことで給食でのO157発生は5件以下に抑えられている」と、基準を順守することが大切と強調した。
その反面、ノロウイルスをはじめウェルシュ菌やサルモネラ菌、ブドウ球菌などによる集団食中毒は収まらず、2014年から23年の間、学校施設は32件発生し、そのうち15件がノロウイルス、ヒスタミン8件、ウェルシュ菌3件など。高齢者施設は128件、事業所は82件、保育所72件、病院50件などで学校施設は圧倒的に少数だった。
特にノロウイルス食中毒は12月頃から増加、1~3月にピークを迎え、4月から減少し夏期にはほとんど見られない。
「人の小腸内で増える菌なので、感染源の多くは人。乾燥した冬期は1週間から1か月位保有期間があるため気づかず、糞便から不十分な手洗いで直接接触、ドアノブ・手すり等を介しての間接接触、汚物・吐しゃ物からのエアロゾル等に注意」と説明。
また糞便から浄化処理されても生き延びた菌は河川から海に入り、プランクトンが食べ、これをカキなどの二枚貝が餌にする食物連鎖もある。
伊藤氏はノロウイルス対策として「二枚貝は十分に加熱」、「手洗いの徹底」、「トイレの清掃と消毒」を提唱。「食中毒は減少したが安心できない。正しい衛生管理を継続しなければならない」と訴えた。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2024年10月21日号掲載