学校給食現場の衛生管理は向上し、食中毒の発生件数は減少している一方、ノロウイルスは依然として無くならない。冬季から増加するノロウイルスを中心に(一財)東京顕微鏡院学術顧問の伊藤武氏が「冬季に向けた給食現場の衛生管理の留意点」をテーマに語った。
国内における食中毒の発生件数を見ると、1998年頃は腸炎ビブリオやサルモネラの発生件数が圧倒的に多かったが、近年ではノロウイルスやカンピロバクターの患者が多くなっている。コロナ禍以降は手洗いが徹底したためノロウイルスの発生も減少したが、手洗いを怠るようになると再び増加することも予測されるので、コロナ後の今後は注意が必要。
ノロウイルス食中毒の月別発生件数を見ると夏季には減少するが、12月頃から増加し、1月から3月にかけてピークを迎える。そして暖かくなる4月からは減少に転じる。ノロウイルスは人だけが感染し、嘔吐、下痢、腹痛、発熱などの症状を発症する。食品や飲料水などから経口感染し、吐物から飛沫感染するケースもある。
ノロウイルスとインフルエンザウイルス(以下インフルエンザ)を比較した場合、ステンレスなどではインフルエンザは24~48時間しか生存できないのに対してノロウイルスは1週間も生存する。エアゾールではインフルエンザは数時間で死滅するがノロウイルスは1週間も生存する。水温4度の水の中ではノロウイルスは60日以上も生存する。こうして生存したノロウイルスは手から食品に付着したり、ドアノブやタオルなどに付着して感染することもある。
サルモネラは食品の中で増殖するが、ノロウイルスは食品では増えず、腸内で増えるため、わずかでも食品についたら発症する恐れがある。栄養教諭・学校栄養職員、給食調理員は感染防止に努めると同時に生カキを食べないなど日常の注意が求められる。
具体的な対策として、カキなどの二枚貝を生食するのは危険が伴うため85度から90度で90秒は加熱してから食べることが望ましい。また、ノロウイルスは乾燥した表面でも冬場は約1週間も生存するため徹底した手洗いが重要。ATPふき取り検査で見えない汚れや微生物の量を測定し、正しい手洗いができているかを確認する。
ノロウイルスは糞便や嘔吐物とともに排出されるのでトイレが汚染源になることがある。トイレのドアノブなどから人に感染し、手指を通して食品を汚染して食中毒が発生する。そこでトイレでのノロウイルスの飛び散りを防止するため、調理従事者は便器に蓋をしてから水を流すこと、作業着から着替えて用を足すなど心がける必要がある。
学校給食法に学校給食衛生管理基準が告示されるなど、文部科学省が指導を進めた結果、学校給食での食中毒の発生は大きく減少した。しかし、ノロウイルスなどは発生しており、新たな食中毒細菌が出現する可能性もあるため、今後も基準を厳守し、手洗いなどの衛生管理を継続する必要がある。
3.東京都立大泉高等学校附属中学校 主任栄養教諭 嶋﨑美香子氏
教育家庭新聞夏休み特別号 2024年8月12日号掲載