増加する不登校児童生徒の支援対策としてICTの活用が注目されている。NTTコミュニケーションズは先ごろ、自治体が取り組んでいる不登校対策の事例を紹介するドコモビジネス教育ICTオンラインセミナー開催。「ICTを活用した不登校児童生徒への最新の支援方法とは?」をテーマに熊本市、岐阜市の取組が報告された。またWebアンケートを基にした学級経営サポートツールの紹介も行われた。
熊本市は独自のオンライン学習支援「フレンドリー オンライン」を構築、小中学生300人近くが参加している。「誰ひとり取り残さない 1人1台端末を活用した不登校支援」について、同市教育委員会指導主事・宮津氏が報告した。
熊本市は不登校児童生徒に対して各学校で支援を行っているほか、市内6か所の教育支援センター「フレンドリー」での支援を実施。さらにオンラインによる学習支援「フレンドリー オンライン」を2022年度から実施している。
同オンラインは本荘小学校と芳野中学校に配信スタジオを設置。両校には支援員を3人ずつ配置し、Zoomを使って不登校児童生徒への学習支援を行っている。2023年度の参加者数は小学生78人、中学生200人だった。
授業を受けていない児童生徒も単元の学習内容を対話型のアニメーションで学ぶことができることから、同ラインには学習アプリ「すらら」、さまざまな場所で働く人の価値観に触れることで自分の生き方を見つめる体験となるキャリア教育を学ぶオンラインプログラムとして「Inspire High」等も活用しているという。
昨年度は配信拠点校と不登校児童生徒の在籍校のデータ連携を実施。これまでは支援員が児童生徒の参加状況をExcelでチェック、市教委が在籍校に報告していたため負担が大きかった。そこでPower Automateで自動的にデータを収集し、Power Biで可視化することで大幅に時間が削減されたという。
また新たな試みとして3Dメタバース「DOOR」を活用。「操作方法習熟・心理的安全性の確認」、「自己紹介」、「発声体験」の3つのステップで、児童生徒がアバターによるバーチャル教室を体験した。
同システムは「コミュニケーションの不安が軽減される」「自分のペースで学習できる」など参加者の約9割が満足していると回答。「今後は先端技術を活用することで、心の居場所づくりや学習機会の保障を実現するなど社会的な自立につながるよう取組を進めていく」と宮津氏は語る。
市内10校にフリースペースを設置する岐阜市は「メタバース自立支援教室」を開始。現在はオンラインフリースペースとしている現状を、同市教学校安全支援課・宮田氏が「あなたが輝く居場所と学び~岐阜市の取組~」と題して報告した。
岐阜市は不登校特例校として草潤中学校を2021年度に開校するなど、いち早く不登校対策に取り組んできた。同校では特別な教育課程や選択可能なカリキュラム、校則や制服がない自由な校風など、就学のさまざまな支援を実施。これにより不登校だった生徒の多くが登校して学んでいるという。
2023年度から子供が安心できる居場所として校内フリースペースを市内5校に整備。フリースペース専属の担任を配置し、自己選択できる柔軟なカリキュラムを導入。今年度は導入校を10校に増やす予定だ。
それでもなお、どこにもつながっていない不登校児童生徒も数多く存在するため、オンラインを活用した支援を開始。NTTコミュニケーションズと協力し、2022年度から「メタバース自立支援教室」の実証実験に取り組んだ。接続・入室ができない場合の対処、児童生徒への声掛けの方法など多くの課題の改善を進め、現在はオンラインフリースペースとして運営している。
オンラインフリースペースではアバターを動かして各フロアを自由に行き来する。登校しづらい児童生徒にとって顔や名前が出ないことは、気軽に参加できる動機付けとなる。子供に実施したアンケートでは「自分の好きなことや楽しい遊びができる」「同世代の仲間とつながることができる」などの回答があがった。「メタバースを活用することで、子供たちの思いに応えることができる」と宮田氏は考える。
今年度からはオンラインフリースペースの継続的な運営を計画。身近なものから学ぶ授業形式の「学びの部屋」、自分のペースで学習を進める「マイタイム」、フリートークでコミュニケーションを図る「ムーブタイム」など、さまざまな部屋を開設。どこにもつながっていない児童生徒のサポート体制を整え、誰一人取り残さない不登校対策の実現を目指すという。
Webによるアンケート機能を基にした学級経営支援システムを活用するクラスや教員間の効果等について、㈱WEBQU教育サポートの河村昭博氏が「WEBQUを活用した不登校支援~予防と早期対応の具体的取り組み~」と題して解説した。
WEBQUは教員が児童生徒の状態を多角的に知ることができる心理アンケートツール。不登校に関しては「対応しなければならない問題」「忙しくて対応できない」「対応の仕方が分からない」など教員により対応が異なるが、同ツールを活用することで意識が統一できる効果がある。
同ツールはWeb上で心理アンケートを実施。質問項目はいじめ、不登校、やる気、ソーシャルスキル、部活動、アクティブラーニング、学習意欲など約15分で終了する。これにより子供の視点から不登校の問題を見つめ直すことが可能だが、クラス全員に面接すると2週間ぐらい時間がかかるところだが大幅に時間を短縮できる。
クラスの状態は「認められている」「認められていない」の縦軸と「安心できる」「嫌な思いをしている」の横軸で4群に分けることができる。最も学習意欲が高いのは、認められていて安心できる「満足群」の児童生徒。認められず、嫌な思いをしている「不満足群」の児童生徒が多いと担任だけではクラスの指導が困難となる。
同ツールの導入校では、中学入学時に小学6年時のデータをチェック。クラス編成にもデータを活かし、学校全体で担任をバックアップした。その結果、入学してから5か月後には満足群の生徒が増加し、不満足群の生徒は大きく減少。教員間の共通理解や情報共有を促すことができ連携が強化されるという。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2024年6月17日号掲載