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第99回【教職員のメンタルヘルス】管理職の責任と権限を明確に

2023年11月20日
連載

毎年、新年度には職場全体で役割(責任と権限)の確認、つまり「やりたくなくてもせねばならぬこと」(責任)と「やろうと思ったら許されること」(権限)を明確にした上で安心して働ける職場を目指して欲しいと思います。そのためには、以下の点について年度当初から対処する準備が必要です。

■職場は「お互い様」で

事情があり皆と同じような働き方ができない教職員については一定の配慮を要しますが、だからといって与えられた役割を果たさずに自分の権利だけを主張するのを黙認すれば、他の教職員の不満が溜まる一方です。しかし、そのような教職員に対して強い指導ができないのは、学校側にもやむにやまれぬ事情があり、「教員不足」という喫緊の課題が大きな影を落としているからです。

どの学校(校長)もこれ以上欠員を出さないようにすることで頭が一杯。臨時任用教諭を募集しても応募がない。「この際、質は問わない」「頭数だけでもいてほしい」など、学校を巡回すると校長からは心の叫び声が聞こえてきます。

大切なのは、自分を取り巻く環境が改善したら、負担をかけていた同僚に対して感謝の一言を忘れないことです。そして自分の周りで困っている同僚がいたら今度はサポートに回ることです。そのように「お互い様」の感覚を職場で共有して、問題を一人で抱え込む教員を増やさないようにすることが大切です。

■管理職のメンタルに影

働き方改革が叫ばれている一方、学校では真逆で、大変心配な事態になっています。教員の世界はブラックだと言われていた時に比べて、教員の働き方も意識も少しずつ改善されてきたようで、夜遅くまで職員室の照明がついた頃から思うと今は雲泥の差です。しかし、細かいところに目を配ると、まだまだ心配な要素があります。

その一つが前述した「教員不足」が管理職のメンタルヘルスにまで悪影響を及ぼしていることです。現在では、年度途中で産休に入った先生や病休にはいった教員の代わりが見つかりません。校長はマイナス2、マイナス3の定数減の状態で、「綱渡り」の学校運営を強いられています。

教員不足を補うために教頭や教務主任が当たり前のように授業を担当しています。子供たちが下校するまでは授業に専念する必要があるので、自分の本来の業務に取りかかれるのは1700分近くになってから。気がつくと21時をとっくに回っていたという話をよく聞きます。

こんな状況が毎日続いたら、教頭や教務主任も参ってしまいます。学校はギリギリの状態で何とか持ち堪えていますが、学校の心臓部と言える教頭や教務主任が倒れてしまうと学校自体が機能しなくなってしまいます。校長を目指すからには少々勤務時間が長くなろうと土日出勤しようと、そのくらいは当たり前だという考え方の一方で、自分自身も労働者であることの一面にもご配慮いただきたいと願います。

■笑顔は心のゆとりから

教頭や教務主任に最近お会いすると、笑顔が見られなくなってきたのが心配です。もっと凝視すると、校長ご自身の心のゆとりがなくなり、表情が険しくなってきたのが気がかりです。

前述の「教員不足」等の学校経営上の問題だけでなく、地域との付き合いが大きな負担になっている校長もいるようです。行事や活動が活発な地域にある学校では、週末ごとに○○町内会の運動会に出席、○○町内会の地域祭りに出席など多忙です。歴史のある学校ほど学校を支える地域との「お付き合い」が大切なようです。なかには気がついたら4月から週末は必ずどこかの行事に駆り出されるので、「平日、学校で仕事をしている方が気が休まります」と言っていたのが印象的でした。


土井一博(どいかずひろ)=順天堂大学国際教養学部客員教授

教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年11月20日号掲載

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