給食をはじめ`食’にかかわる最新情報・展示が集結した｢FOOD展2023｣が9月20日から22日まで東京ビッグサイト(東京・有明)で開催され、来場者は3日間で延べ4万4300人余り。｢学校給食特別展示｣では調理業務の効率化や衛生・安全管理をテーマに各社が出展した他、関連のセミナーには給食関係者の参加が多数みられた。
セミナー会場では熱心な質問が続いた
開催2日目の学校給食セミナーは｢今求められる学校給食の衛生管理｣をテーマに、女子栄養大学名誉教授・金田雅代氏のコーディネートで、(一財)東京顕微鏡院顧問・伊藤武氏、(公社)全国学校栄養士協議会会長・長島美保子氏がパネラーとして登壇した。
異学年の児童が一緒に使える手洗い場は新たな提案の一つ
伊藤氏は近年の食中毒の事例として、1996年5月岡山で第1号が発症し12月まで全国的に大流行した｢O157｣の歴史を振り返り、対策としての｢学校給食衛生管理基準｣(基準)の制定と、制定後にも発生する食中毒への心構えなどを語った。
O157は患者1万5000人以上、集団発生25件、そのうち7件が学校給食が原因で死亡6人だった。食中毒を起こした給食調理場の主な問題点は①汚染区域・非汚染区域の区別が不明確、②作業動線が不明、③調理者の専用トイレがないなど。S市の調理場では①検収室がない、②検収が行われていない、③食材が室温で放置、④ウェット調理場、⑤温度測定がない、⑥手洗いシンクが少ない、⑦給水栓が手回し、などの不備が見られたという。
台車ごと搭載でき、調理員の労働負担を軽減する運搬ロボット
これらを踏まえ翌1997年、基準が制定・実施され、｢施設｣｢設備(調理機器)｣について具体的に示された。さらに食中毒発生施設を中心に巡回指導で改善状況を確認。その結果、ソフト面では｢過去に発生した食中毒事件の教訓が生かされていない｣｢学校給食実施者が、調理場での衛生管理についての指導が不十分｣などが見られたと言う。基準制定前と制定後2021年までの食中毒発生件数を比較すると、制定前は年平均約14件、制定後は4・5件で3分の1に減少。病因物質の比較で大きく減少したのは、O157がゼロ、カンピロバクターが55件から6件、サルモネラが32件から13件、その他病原大腸菌が27件から6件など。逆にノロウイルスは基準前は検査未実施で不明だったが基準後は57件で多発。これらの状況から伊藤氏は、｢学校給食による食中毒は確かに減少した。だから安心とは言えない。基準を厳守し、正しい衛生管理を継続しなければならない｣と注意を促した。
長島氏は基準制定時から今日まで、衛生・安全管理の徹底のため全学栄が毎年継続している｢研究授業方式による衛生管理研究会｣の取組を紹介した。
各都道府県の学校栄養士協議会ごとに小グループで開催され、年平均1000施設に上る。学校長・調理場長、栄養教諭・栄養士、調理員だけでなく保健所食品衛生責任者をはじめ学校給食関係者以外の人が参加する組織。普段と違う立場からの視点で、改善点の発見があると言う。
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参加者との質疑では、作業効率化や実施形態の多様化の流れで、｢前日調理(下処理)｣や｢早朝からの調理｣が見られることについての意見等が求められた。
長島氏は｢学校給食の本来の目的はおいしく安全な、食育の教材としてきちんとした料理を提供することにある。おいしくてしかもきちんと安全をチェックできる技術を持つことへの努力を惜しまないでほしい｣と述べた。伊藤氏は｢大量の給食を配食時間に間に合わせて仕上げるために、調理は深夜・早朝から、食べるまで6時間以上たっていることはあり得る。衛生管理はマニュアル通りにやれば良いのではなく、現場の実践と点検が大事｣と指摘した。
｢学校給食は当日納入、当日調理が原則だが、施設設備が整えられていれば、洗浄などの下処理程度はその限りではないとされている。補助金等も研究してほしい｣と金田氏はまとめた。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年10月16日号掲載
