前回の号で教職員メンタルヘルスカウンセラー(MHC)の活動基盤として教育委員会、管理職、相談者の3者のニーズを満たしつつ、ウィンウィンの関係性が成立していることが重要だと述べました。今回はMHCの活動について具体的に述べたいと思います。
例えば10月訪問予定の学校のスケジュールを決める場合を説明します。毎月訪問する学校数を30校前後と決めているので、9月末頃に市内小中学校40校程度に電話をかけ、巡回相談に都合の良い日時を伺い、スケジュールを調整します。MHCの本拠地(居場所)は設けていないため、電話は外出時の人気のない場所で行っています。
この作業を毎月行いますが、困難を極めます。午前中に学校に電話をしてもなかなかつながらない学校が増えているからです(特に小学校)。その主な理由の一つには、教員不足の影響で学校によっては教務主任や主幹教諭、なかには教頭までもが授業を担当している学校が増え、職員室の電話が鳴っても誰も電話に出てくれないことがあるからです。また校長に電話を取り次いでもらうタイミングも、午後は出張等で学校を不在にしていたり、放課後は職員会議等の打ち合わせ中のことが多いため、最近では①朝の打ち合わせ前の時間帯、②検食が始まる11:30~お昼休みの時間帯の2回に集中して連絡を取るように心がけています。
次に面接の対象者について。特に午前中は校長、教頭、養護教諭等の一人職の方との面接を実施しています。一人職の先生方は校内に同じ職種の同僚がいないため、一般教諭にはわからないその職種特有の悩みや問題を抱え、問題を1人で抱え込みやすいのです。
そんな時校長は、大学院を経て心理の資格をとった若いカウンセラーに相談したいと思うでしょうか。校長や教頭の相談者という観点からも、MHCの資格があるとすればある程度の社会経験があり、学校や教員世界のことに造詣が深い、心理の専門性を持った人物が適任というところに繋がっていくのです。
MHCの人となりを知ってもらうため、①自己紹介のプリントやメンタルヘルス通信等を継続配布し、②実際にお会いして「本人」に安心して頂き、③その際の様子を先生方の「口コミ」により職場の同僚などに拡散してもらう。それがやがて教職員研修会や保護者会の講演に繋がっていく。1人のMHCの存在が、こんなにたくさんの教育関係者に影響を与える。そんな費用対効果をもつのが教職員MHCなのです。
このようなお話をすると、週に一度学校に来て相談室で面接をするスクールカウンセラー(SC)との違いがご理解いただけるのではないでしょうか(誤解のないように申しますが、SCを否定するのではなく、SCの仕事とは目的が異なると言いたいだけです)。
余談ですが長年この仕事に就いていると、見なくてもいいものが見えてきたりするものです。校長不在時の教頭の電話対応の様子から、その教頭の力量の一端を垣間見ることができることもあるのです。例えば、①相手の話の内容を正確に聞き取り、瞬時に相手の要望に適切な回答をすることができるか、②今後の対応について自校の教職員に適切な指示が出せるか否か等で、この教頭が校長になっても学校を任せられるかどうかある程度予測がつくこともあるのです。
話を戻します。MHCが学校訪問してまず目を通すのが、正門の玄関付近に掲示してある「学校だより」です。
なかには、古いままの学校通信をいつまでも掲示している学校や、お客さんを迎える玄関にウェルカムボード等の掲示やスリッパの用意がされていない学校があります。それらの接遇面の対応などからMHCへの関心度や期待が推し量れるのです。
土井一博(どいかずひろ)=順天堂大学国際教養学部客員教授
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年9月18日号掲載