前回は教職員メンタルヘルスカウンセラー(MHC)誕生までの経緯や、活動のアウトラインをお話ししました。今回はMHCの活動内容の詳細についてお話しすることにします。
今年度で17年目を迎えますが、最初の2年間は正式には予算がつかない状態からのスタートでした。
現在のMHCの身分は「会計年度任用職員」で、原則1年契約です。1年間に訪問する学校数が決められており、その範囲内で活動しています。男女各1名ずつの配置です。その主な活動について以下に述べることにします。
大きな柱としては、①教育委員会、②校長、③メンタル不調者の3者のニーズに応えるものでなければならず、しかも、お互いにとって「ウィンウィンの関係」が成立しなければシステム自体の存在価値がないのです。
例えば、①教育委員会としては、メンタル不調者の情報をできるだけ早く把握したい。→MHCが直接学校現場に出向き本人との面接を実施する。→教委が学校訪問をしなくてもMHCからリアルタイムでメンタル不調者の情報があがる(早期発見につながる)。 ②管理職としては病休・休職者が出る前にできるだけ早く対処したい。→MHCに連絡をする→巡回相談を中断しても、管理職が相談したい時にすぐに来てくれるMHCが存在する。→管理職とMHCが今後の対応について迅速に協議(両者にとって早期対応につながる)。 ③メンタル不調者のニーズとしては→すぐにでも相談したい。特にトラブルの相手が管理職や職場の同僚の場合、校内の人にはなかなか相談しづらい→そこで外部の人間で、利害関係のない、教職経験のある心理の専門家になら、安心して相談できる。 ④メンタル不調者は、心療内科を紹介して欲しいという要望が強い→個人で心療内科等を探すと、予約が1か月から1か月半くらい先になる→MHCに相談すれば1週間以内に診てくれる医療機関と連携をしているので、早期の受診が可能です(川口市では約15年かけ、学校現場や教職員のことをよく理解してくださる医療機関との関係作りを地道に行ってきた)。
①毎年4月1日に実施される「着任紹介式」にて、市内小中高等学校の校長・初任者の前で、MHCの紹介をお願いしている。MHCの顔を直接覚えて頂くためです。
②年度当初の校長会や教頭会等に参加させて頂く。MHCの活用法について具体的に説明をさせて頂くためです。
③新年度のできるだけ早い時期に、教育委員会を通してMHCの「人となり」がわかるような自己紹介のプリント(A4サイズ1枚程度)を市内全教職員に配布しています。
④誰でもMHCに直接連絡できるようにするため、MHCの携帯番号(業務連絡用)を全教職員に公開しています。
⑤市内全教職員を対象に「メンタルヘルス通信」を発行してます。内容はメンタルヘルス予防に関する啓発。教師のメンタルヘルス予防が最終的には子供たちの健康や発達に影響を及ぼすという視点を、教職員と共有するためです。
⑥初任者メンター制度を採用。川口市では初任者に、2~3年目の教員を「メンター」として1年間公私にわたる相談役に任命しています。メンター役の先輩教員と初任者が一堂に会する研修会を開催し、初任者の職場不適応等の予防等に努めています。
MHCシステムは、認定心理士等の有資格者を巡回相談させるだけではうまく機能しないのです。そこには明確な目的やターゲット、学校現場のニーズがどこにあるか等のリサーチ能力、学校文化や教師に対する深い造詣等を兼ね備えた心理臨床の専門家が適任だと考えます。
土井一博(どいかずひろ)=順天堂大学国際教養学部客員教授
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年8月21日号掲載