校長の仕事とは、組織と人を育てることだと思います。以下はある退職校長から伺った話です。
新しい職場に異動した際には、新年度の最初に主任クラスを集めて、今年の学校経営方針を伝えるそうです。その際に意識していることは、「結論」を先に言うこと。例えば「このメンバーで1年間働けて幸せだったと言う職場にします。先生方、すべてはここに神経を使ってください」とお願いをするそうです。
これが着任2年目の場合には、「この学校の良いところは先生方のチームワークが良いところです」と強調し、新年度を前向きにスタートするそうです。学校経営方針は校長の姿勢でもあるので、ポジティブな方向の目標を掲げ、教員各自に連帯感や一体感、所属感等の「共同体感覚」が生まれるよう努めているのです。
特に4月から6月の間、転勤1年目の教員や初任者には、1日に1回は声をかけるように企画委員会のメンバーにお願いをしておきましょう。職員が健全に機能していれば子供たちも健全に育ちます。ここでいう健全とは、職場が「温かい」とか「チームワークが良い」、「同じベクトルを向いている」ということです。「学年セクト」とか「学級王国」などの言葉が飛び交っている職場は、どんどん悪い方向へ向かいます。
さらに校長と養護教諭が職員のことについて話をする機会を大切にしています。養護教諭は子供たちだけでなく、職員の健康も司ることができることが望ましいですね。
学校の組織作りは学級経営と似たところがあります。例えば、弱い子やできない子、不登校の子に対して学級担任がどのように接してくれるかを子供たちは見ています。上記のような子供たちに対して、こういう接し方をしてくれる先生なら安心していられると感じ、組織への所属感や一体感が強くなるのです。部活の指導も一緒です。レギュラーやスタメンだけを大切にする部活は結局、先細りしていきます。一年生や補欠の選手などを大切にする部活は強くなります。
管理職が初任者や病休、休職者を大切にする職員室経営をすると、職員の情緒が安定してチーム○○と使わなくてもチームになるのです。このことは言葉で表せば簡単ですが、「安心して働ける職場環境作り」のためにはとても大切なものなのです。このことは「子育て、介護等で休まなければならない教職員が安心して休める職場」づくりに繋がるのです。
生徒指導や保護者問題の解決の鍵は「校長」が握っています。
近年、校長を目指す人たちの中には、生徒指導や保護者対応などの修羅場(困難な場面)をくぐった経験がない人が増えています。その結果、大事な局面での「瞬時の判断」ができるだろうか不安です。自分で決められないから指示が出ない、教職員も落ち着かない。だから校長が出した判断を、教職員は正解に導くことが出来ないのです。
判断の「結果」を職員のせいにしてはダメです。学校の出来事の全ての責任は校長にあり、手柄は教職員のお陰。逆のパターンでは職員は反発します。「何かあったら責任は校長が取りますから、先生方思い切ってやってください」この一言がどれだけ職員を勇気づけることでしょう。それが言えない校長ほど学校経営で苦労しているようです。
校長の職務には「指導」と「支援」の両方が必要です。ここでいう支援の中身は「教えること」と「育てること」。不思議なもので、校長の教職員に対する姿勢が、子供たちに対する教員の指導にそのまま反映されるのです。教職員の話に耳を傾けることも大切です。それは結果として、子供や保護者の声に耳を傾けることに繋がるのですから。
土井一博(どいかずひろ)=順天堂大学国際教養学部 客員教授
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年4月17日号掲載