アナフィラキシーなど重篤な食物アレルギー発症への対応に有効とされるエピペンだが、実際に教職員が使用するには安全性への不安などがあり躊躇する場面が多い。そのため各学校内で校長をトップとした調整会議の設置、緊急時の「模擬訓練」などの対応研修などが重要である……文科省の「アレルギー疾患に関する調査委員会」委員長・吉原重美氏(日本小児アレルギー学会理事長)が(公財)日本学校保健会の2022年度事業報告会で講演し、アレルギー疾患の現況を語った。
現在集計中の2022年度「アレルギー疾患に関する調査」に先立つ10年前、2013年度「学校生活における健康管理に関する調査事業報告」の第5章「アレルギー疾患に関する調査」から、吉原氏はアレルギー疾患の現況について解説。10年前との比較で、「食物アレルギー」は4・5%で10年前(2・6%)よりすでに2倍近く。アナフィラキシーは0・48%で10年前(0・14%)から3倍以上に増えている。吉原氏の講演概要は次の通り。
食物アレルギーの臨床分類として、花粉が引き起こす食物アレルギーの「口腔アレルギー症候群」が増加傾向にある。またFELAn(食物依存性運動誘発アナフィラキシー)は小麦、甲殻類などからの発症頻度が高く、摂取後の運動で全身のじんましん、顔面腫脹を伴う重度な皮膚症状、呼吸器、循環器、腹部等に発症する。FELAnの予防には、運動前の原因食物の摂取を避ける、原因食物を摂取後2時間(確実な回避には4時間)運動しないなどの対策がある。
食物を摂取してからアナフィラキシーショックを発症するまでは平均18・59分だが、41%は9分以内で、74%が食後30分以内に発症。その際の最も重要な治療薬がエピペン(アドレナリン事故注射薬)だが、使用5分以内の即効性があるが持続時間は約20分で、必ず病院への搬送が重要だ。
日本では2011年から保険収載され。20112年の給食死亡事故から積極的な使用が推奨された。しかし適切に使用されていない症例が少なからずみられる。
学校で発症した場合のエピペン使用は教職員の場合が26%だった一方で、使用しなかった理由には「使用のタイミイングが分からない」という声が多かったことから、日本小児アレルギー学会は使用するべき症例を表にした。すぐ参照できる場所に用意しておくことを勧めたい。
使用効果について、69・8%が「回復」、「軽快」が25・1%で9割以上に効果がある。
食物アレルギー対応には校内組織、研修が重要で、校長・養護教諭・栄養教諭と専門医師会、保護者、消防本部、自治体担当者で構成する調整会議を設置。校内研修で最も大切なのはアクションカードを使った「模擬訓練」の実施。発症時には教職員が役割分担し全校で、迅速に対応することが大切だ。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年3月20日号掲載