2023年度、文部科学省予算では、新規事業に「公立学校教員のメンタルヘルス対策に関する調査研究事業」がスタート。教員の精神疾患による病気休職者の数は、2021年度5897人に上り、過去最多だった。学校現場での教員不足は慢性化しており、休職者の増加はその大きな要因のひとつ。休職者の増加は現場の教員への負担を増幅し、さらなる休職者を生む。文科省はオンライン相談やストレスチェックのICT導入など、メンタルヘルス対策に本格的に乗り出し、休職者の増加に歯止めをかけたい考えだ。
教職員のメンタルヘルス対策は今までも取り組んできたが、教員の不足の解消に待ったなしの現状を踏まえ、本格的かつ具体的な施策として取り組むという考えが今回の新規事業のスタートとなった。
文科省担当者は「現在の休職者の数が約5900人、さらに公立小・中学校での教員不足が約2500人。効果のあるメンタルヘルス対策を行うことで、休職や病気休暇の予防、休職者の復職ができれば、教員不足の解消につなげることができる」と期待を寄せる。
今回の対策の核となるのが先進的な優良事例となる実証モデルの実施だ。事業委託対象は主に都道府県と政令市の教育委員会。採択された自治体は民間企業や専門家等と協力しながら、病気休職の原因分析やメンタルヘルス対策、労働安全衛生体制の活用等に関するモデル事業を実施し、教員のメンタルヘルス対策の事例の創出や効果的な取組の研究を行う。
文科省は2月16日、本事業の狙いや考えられるメンタルヘルス対策の取組について自治体向けの説明会を行ったところであり、今後モデル事業採択における要件を示し、実証に取り組む自治体を募集する。モデル事業に手を挙げた都道府県・政令都市の教育委員会の中から選定し、要件をクリアした自治体に対し委託する。選定には、要件のクリアに加え、有識者による審査も加味。できれば2022年度中に公募を行い、23年度4月から本事業をスタートさせたい考えだ。
次年度以降はモデル事業をもとに、優良事例として全国に横展開を図り、取り組み拡大を促していく。教育委員会や教員だけで現状の分析や対策を講じるのではなく、心理学の専門家や、例えば一般企業の職員にメンタルヘルス対策サービスを提供している民間企業等と連携し取り組むことも考えられる。病気休職の原因分析や労働安全衛生体制の活用で休職者を減らせるような優良事例を作り、全国的に広める。
今回新たな取組として挙げられているのがICTやSNSの有効活用。メンタルヘルスの予防的対策としてこれまで、セルフケアの促進やラインケアの徹底を呼び掛けてきた。今回はこれらの対策を、ICTやSNSを活用しながら進めていく。例えば、ストレスチェックや仕事の様々な相談を対面だけでなく、オンラインで行うことで、コミュニケーションの強化を図る。また身体に着けるウェアラブル端末で、血圧や心拍数、目の動きや声のハリなどを測定することで、仕事が過重になっていないか、メンタルへの影響がないかなど、症状を自覚する前からチェックできる。文科省担当者は「ICTやSNSを利用した形はいろいろな用途が考えられ、一般企業での取組も参考になる」と話す。
公立学校共済組合近畿中央病院は、大阪メンタルヘルス総合センターと共催でメンタルヘルスセミナーを行っている。今年度は昨年12月にオンラインで開催し、約200人が参加した。
同病院は2002年から「教員復職(リワーク)支援プログラム」を立ち上げ、その翌年から教職員のメンタルヘルス相談をスタートしている。昨年度までは近畿圏を中心に2府4県対象でセミナーを開催していたが、今年度は全国的に案内。参加者は約3倍と大幅に増加した。事務局は「全国的に周知したこともあるが、教員のメンタルヘルスの必要性が高まっており、問い合わせは多くなってきている」という。
セミナーでは教職員の職場の環境要因として「長時間労働」「問題の困難さ」「社会的期待」「枠のない環境」「人間関係」などが挙げられ、また個人の内的要因としても「過剰適応」「完璧主義」「自責感の強さ」「断れない」「頼ることが苦手」「人の評価に過敏」であることが多いと説明された。
疲れがどこに現れるか、いわゆる「ストレスサイン」は、頭痛・動悸・血圧の上昇等の身体的なものや、不安やイライラ、無気力などの心に出てくるものなどがある。また遅刻や早退、欠勤のように行動にも現れる。サインに気づいたら早めの対処が必要だが、本人より周囲の人間が気づくケースが多く、お互いに助け合い気づいたら声を掛け合う職場環境をつくることが重要だという。
質の良い睡眠、人間関係は適度な距離感を保つ、たまに弱音もはき、自分や仲間を守りながら働くことを呼びかけた。
同セミナー企画担当の井上麻紀副センター長は、「まず現場に必要な人的配置」を指摘。現状では教育現場の働きやすさは管理職のメンタルヘルスに関する知識や技量にかかっているとし、今後は管理職、特に孤立しやすい校長等の相談窓口を設けたいと考えている。「メンタルヘルス対策は特別なことではないと感じてもらえるよう、気軽にメンタルヘルス相談、eラーニングなどを活用した研修が利用できるよう呼び掛けていきたい」と話す。
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年2月20日号掲載