①〈文科省、教員のメンタル対策強化=病気休職、教委で原因分析〉全国7か所の教委を選び、それぞれ原因分析と対策検討を依頼(2022,10・05時事通信社)。
②〈20代の休職深刻、悩む若手教員見逃さず、新任カウンセラー面接、先輩から助言制度導入〉。心の病が原因で1か月以上休んだ公立小中高等学校教員のうち、20代の全教員に占める割合はこの5年間で1・5倍。(2022,12・08読売新聞)。
③文科省の人事行政状況調査では、2021年度に精神疾患を理由に休職した教員は20年度より694人多い5897人で、過去最多となる(2022,12・27西日本新聞社)。
政府は2023年度から25年度の3年間で都道府県・政令都市の教育委員会によるメンタルヘルス対策のモデル事業関連の経費として7000万円を計上しました。昨年10月の文科省の発表より、ようやく教員のメンタルヘルス予防に関する取り組みが少し見えてきました。
一方、学校現場に目を移すと、小学校教員の採用試験倍率が3倍台に突入。自治体によっては、教頭試験の受験倍率が2倍を切り、いずれも質の低下が危惧されています。一部の中学校では技術科や家庭科等、教科によっては代わりの教員が見つからない状態が続き、一部小学校では、病気休職等で担任不足に陥り、教務主任や教頭が授業を担当。児童が下校するまで自分の仕事ができず、放課後に教務や教頭の仕事を始めることになり、帰宅が遅くなる毎日が続きます。
学校現場は与えられた課題に対して愚直に粘り強く取り組まれています。例えば残業時間調査に関しても、校長は教職員一人ひとりの残業時間に目を配り、遅くまで残業している若手教員に声かけや帰宅を促しています。また、自分が遅くまで学校にいたら教頭も帰りづらいだろうと、できるだけ早く帰宅するようにする校長もいます。
「リフレッシュデー」や「ノー残業デー」と呼び名は様々で、週一回、残業や会議をなくして早く帰宅する日を設定する。部活動も平日1日、週末1日を休む学校が一般的。働き方改革も、学校現場はできる限り努力しているのです。
このような教員の頑張りを支えているものは、子供を育てる教員という職業の「やりがい」や「すばらしさ」を体験したからこそです。決して自分たちが健康で安心して働けるような職場環境を構築するためだけではありません。最終の目標は、教職員が安心して働けるような職場になることが、「何よりも子供たちの成長や発達に良い影響を及ぼすから」という視点に繋がるからです。教員が元気でなければ子供たちが元気になるわけがない…教員のメンタルヘルス問題を語るうえでこの視点を抜きには語ることはできません。
人を育てる職業は、育てる側がある程度の余裕があるくらいの中で営む方が対象者に対する見方・とらえ方に柔軟性が出てき、アイデアや想像力が豊かになるのではないでしょうか?忙しい渦中にある時は、その場の瞬時の判断と迅速な対応が求められますが、少し時間が経過し、振り返る余裕ができるようになると、「今の自分だったら違う対応ができたかもしれない」と、後悔することがあるかも知れません。うまくいかなかったことを「失敗」だったと落ち込まず、よい「経験」ができたと思えることで、教員としての次の成長に繋がっていくのではないでしょうか。
法律家や医師、教員など様々な分野で人を育てる職業は、本来、複眼的な環境において、ゆとりある時間の流れの中で営まれる方が、いい人材を輩出していけそうな気がしますがどうでしょうか。
土井一博(どいかずひろ)=順天堂大学国際教養学部 客員教授
教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2023年2月20日号掲載