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学校施設

第90回【教職員のメンタルヘルス】「マイベスト」という考え方も

2022年11月21日
連載

■燃え尽きそうなAさん

Aさんの担当する校務分掌は学校全体に関わる教務主任という仕事。とても忙しい上に、産休に入ったCさんの代わりが見つからないため、Aさんが授業を肩代わりしていました。さらに最近は保護者対応でトラブルが発生し、その対応も重なって休日出勤を繰り返していました。

Aさんはやらざるを得ないと腹をくくり、持ち前のガッツで乗り切ろうとしましたが、次第に判断力が低下し仕事の効率もあがらず、ある朝、校門の前まで来たのですが、そこから一歩も校内に入ることができなくなってしまいました。

■管理職の理解が安心感に

ストレスは仕事量だけではなく、職場の人間関係からも影響を受けます。例えば仕事量が多くても、管理職が自分の現状をわかってくれているという安心感があれば、それほどストレスとは感じません。しかし管理職の理解がないと、仕事はただ辛いだけのものになり、大きなストレス源になってしまいます。代わりの教員を探すのが困難な今、教務主任のような学校全体の仕事に関わる貴重な人材を失ってしまうようなことになれば、管理職だけでなく、学校にも痛手です。

管理職は部下を理解し、育てる役割を担っています。また学校経営の責任者でもあると同時に、部下の健康管理の責任者でもあるのです。日頃の教職員の様子に目を配り、安心して仕事ができるようマネジメントする能力が問われます。

部下のストレスを軽減し、教育成果を上げていくことが、管理職の健康経営な手腕(マネジメント能力)の一つと言えるのではないでしょうか。

■「休むこと」も仕事

同じ教員同士でも経験年数等によって力量に差異があるのは当然です。学校現場では成果主義や勤務評価制度等の導入で、デキる教員に一部の仕事が集中する傾向が見られます。前述の教務主任のように、デキる教員はやるからには良い結果を出そう、期待に応えようと辛くても頑張り続けてしまうために、大きな行事が終了した直後、突然体調不良を起こしてしまうケースが少なくありません。

1人職で、代わりのいない役割の教師(養護教諭・栄養教諭や教務主任等)ほど、少しの時間でも「休むこと」が大切です。日本では仕事を休むことに罪悪感を覚える傾向にありますが、疲れは「休まないと病気になるよ」という心や身体からのサインで休むことも仕事のうちです。どのようにしたら休みが取りやすい職場になるかをみんなで考えましょう。

また、「良い結果を出さなければ」と自分を追い詰めないことも大切です。「できる範囲でやればいい」と考えてみましょう。物事の受け止め方や考え方(認知)を変えるだけでも心がずいぶん軽くなります。また、やるべきことの優先順位を決めたり、つらいときは誰かに頼ることも必要です。学校組織はあなたが休んでも必ず代わりの誰かが仕事を引き受けてやってくれますから。ときには「デキる人」を返上する勇気も大切です。

3か月休んだAさん

周囲に説得され、ようやく3か月ほど休んだAさん。実際には、仕事のことを考えずにゆっくり休めるようになったのは2か月目からでした。家族と過ごす時間が増え、少しずつ食欲も回復し、睡眠も取れるようになり、ようやく職場復帰を果たしました。復帰後も相変わらず仕事量は多いのですが、「マイベストをつくせばいい(できる範囲でやればいい)」と思うように心がけ、仕事の合間にこまめに休憩を入れるようにしたことで次第に回復していきました。管理職もAさんに頼りきりだったことを反省し、なるべく仕事が1人に集中しないよう学年や同じ教科の教員に協力を求め、再び休職に入らないよう心がけているようです。


筆者=土井一博(どい・かずひろ)順天堂大学国際教養学部客員教授

教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2022年11月21日号掲載

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