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学校施設

第89回【教職員のメンタルヘルス】相談しやすい職場の雰囲気を

2022年10月17日
連載

Aさんは、半年前に育児休暇を終えたシングルマザーです。仕事も育児もおろそかにしないと決意して職場復帰を果たしました。とはいえ、保育園に子供を迎えに行くため残業はできず、子供が発熱すれば早退して迎えに行き、家庭では家事と育児に追われ、休日もたまった家事を終わらせるのに精一杯です。

ある日Aさんは日頃の疲れからか集中力を欠き、仕事で大きなミスをしてしまいました。職場の人に迷惑をかけてしまい落ち込んでいたAさん。自分をフォローしてくれるCさんに「何もしないでいてくれた方がありがたい」と陰で言われるのを偶然聞いてしまって以来、仕事がますますたまる一方です。

心身ともに疲れ切ってしまったAさん。自分で職場復帰を決めたため、両親にも弱音を吐けず悩んでいます。Aさんは、仕事も育児も「完璧でなければならない」、「人に頼るべきではない」という思いにとらわれているため、仕事と育児が両立できないのなら、いっそ仕事をやめた方がいいとまで思い詰めるようになっていました。

仕事と育児等の両立は想像以上に大変なことです。Aさんのように、何事もパーフェクトにやろうとすると、いずれその負担に耐えかねてパンクしてしまうことにもなりかねません。問題が生じれば、自分だけでなく周囲の人にも迷惑をかけることになります。本当に必要なことだけに力を注ぎ、借りられる力は借りることが大切です。

■自分だけで抱えない

助けてくれる同僚から不平や不満を言われたら「いつか恩返しするからね」と感謝の気持ちを示し、決して自分自身を責めたり、問題を抱え込んだりしてはいけません。子育て中は子供最優先になりますが、それも一時のこと。肩の力を抜いて子育ての時間を楽しみましょう。

働き方改革が叫ばれ、家庭に事情を抱えている同僚の仕事をフォローすることに、少なからず不満を感じている人がいるかもしれません。Cさんも予想外の業務に追われ、つい不平の言葉が外に出てしまったのですが、言葉は独り歩きして結果的に相手を傷つけてしまいます。このケースではCさんがAさんの仕事を自分だけで抱えてしまったことが問題でした。

仕事に支障がでそうな時は、まず管理職や職場の同僚に相談することが大事です。自分で抱え込むとフォローする側がストレスをため込むことになりかねません。職場では自分だけで悩んでも解決できない問題がたくさんあります。みんなで考えることが大切です。

その時に職場の雰囲気が大切になってきます。管理職との軋轢があったり、各教員が好き勝手なことをやっていて、教員間がばらばらな状態の職場では自分のことで手一杯です。

■職場の課題は共有する

Aさんは家族とも相談をし、家事は母親に手伝ってもらうことにしました。職場では先輩教員の指導を仰ぎながら仕事に優先順位をつけ、フォローしてくれるCさんに対しては感謝の気持ちも忘れないようにしました。それでも思うように仕事がはかどらない時は、「しょうがない」「そういう時もあるさ」と受け止めるようにして、自分を必要以上に責めることをやめました。Cさんは、自分の仕事の大変な状況を管理職に相談したところ、Aさんのフォローは職場全体で取り組むように改善され、Aさんに負担が集中することがなくなりました。

「子育て介護は行く道、来る道」。若い教員もいずれ子育てや介護の時期がやってきます。その時に他の教員から支えてもらえるように、職場の中で今自分ができることを精一杯果たすこと(つまり、ザベストではなく、マイベストを尽くすこと)です。すると自分が子育て世代になった時、周囲から救いの手が差し伸べられるでしょう。「困ったときはお互い様」ですから。


筆者=土井一博(どい・かずひろ)順天堂大学国際教養学部客員教授

教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2022年10月17日号掲載

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