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学校施設

第88回【教職員のメンタルヘルス】職員室が安心の場である条件

2022年9月19日
連載

教員という職業は人の子供の面倒をみる仕事です。自宅に戻っても保護者から電話があれば愛情たっぷりに受け答えします。自分の子供は二の次にして、土日も部活動や生徒指導のための面接などを設定して、人の子供と付き合うこともあるのです。自分の子供の作文はざっと目を通すだけだが、クラスの子供の作文は丁寧に読んでコメントまでつける。こういう様子を見ている子供は、少なからず「カイン嫉妬(コンプレックス)」をもつのです。カイン嫉妬とは、きょうだいが親の愛をめぐってもつ、一種の「ライバル意識」のことです。自分の親は、私よりも他人の子供の方を愛している、と。それゆえ慢性の愛情飢餓に陥るのではないかと推察されます。そこが会社員の親と違う点です。教員の親が人の子に電話しているのと、会社員の親が仕事上の電話をしているのと、親子のリレーションの脅かされ方が違うのではないでしょうか。

しっかり者の教員とは極度に自主独立の精神を持っているものです。しかし、その自主独立の裏面には、慢性の不安・孤立があるようです。その原因は、「人に助けを求める学習ができていない」からではないでしょうか。模範的な教員ほどエンカウンター・グループ等で心的ダメージを受けやすいといわれるのは、日頃の防衛機制(人の世話にならず自分のことはマイペースでやっていくという力み)が粉砕され、どうしてよいかわからなくなるからではないでしょうか。他者との間で、甘える、甘えさせる(ギブアンドテイク)がないので、外見的には可愛げがない。決して自己中心ではない、他者への配慮はある。にもかかわらず孤立している印象を与える。それは他者との間に「共感的なやり取り」が少ないからではないでしょうか?

職員室はある意味、異年齢集団とも言えます。その職員室が安心できる場所として成立する条件は、教員一人ひとりが「個」でありながら、「集団の一員」でもあることを意識することが大切です。

木登りに例えると、子供の場合には、上級生に導かれながら、安全な登り方、自分はどのくらいの高さから飛び降りることができるかといったことも体得していきます。危ないのは、子供には登れない高い枝に、大人がひょいと乗っけてあげることです。それは行き過ぎた手助けです。子供から、自分に登れる木かどうかを判断する機会を奪うことになりかねないし、木に登る経験をしないために落ちる危険も増すのです。

若手教員に手を差し伸べる場合にも似たような配慮が必要です。コロナ禍でここ3年以内に着任した初任者は、教育実習も経験できないまま学校現場に送り出されています。しかも学校行事は形を変えての実施しか経験していません。それらの現状から特に心配な点は「感情交流(共感的なやり取り)」の不足です。

学級経営(例、喧嘩の仲裁や不登校・いじめ対応等)や保護者対応(例、電話対応・クレーム処理等)について、大学でオンラインでは学んでいますが、即活用できるまで深まっていません。そんな若手教員に、職場の同僚や管理職はどのタイミングで声かけを行い、どこまで手を差し伸べたらよいのかなど例年以上に配慮する必要があるのです。

一方、転勤したての教員にも心配は尽きません。コロナ禍の影響で親睦会や反省会等の企画自体が中止に追い込まれ、教員同士が私的な事情を話したり、感情を伝えあったりする(自己開示)機会が極端に減っています。このような機会の喪失で、2学期になっても同僚や管理職に安心できずに、孤立感を深め、9月から10月にかけて職場不適応を発症する教員も年々増加傾向です。

意識して職場の同僚がお互いにじっくりと相手の話を聞く機会を創出して、同僚に安心することで職場不適応を防止することが可能になるのです。


筆者=土井一博(どい・かずひろ)順天堂大学国際教養学部客員教授

教育家庭新聞 健康・環境・体験学習号 2022年9月19日号掲載

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